【事例紹介】自動車部品メーカにおける設計手順書整備
2020/11/22
■概要
- ・対象企業:自動車部品メーカ
- ・対象部門:メカ設計部門(約100名)
- ・目的:設計効率化
- ・ECM/MD施策:MD式設計手順書整備
- ・取り組みの経緯・期間:
- ・体制:専任1名(途中より)、兼任5名、外部コンサルタント1名
- ・製品特性:外観意匠のある車内インテリア部品、部品点数 数十〜100点ほど(メカ部品のみ)
設計期間約1~1.5年、1製品当たりの設計者は2~4名(リード1名、担当1~3名)
■MD活動の背景・狙い
以前から設計標準化に取り組んでおり、PDFの設計手順書はありましたが、文章と挿絵から構成される読み物となっていました。(例えば、ある部品幅200mmの固定爪の設置について、1辺の両端と間隔が50~80mmになるようにすること、と言った記載。)また、製品開発における最新の過去トラは掲載されていない為、陳腐化が進んでいました。その結果、新人の技術教育には活用されるものの、中堅以上の設計者には使われないものとなり、設計効率化には全く寄与していませんでした。
一方で、自動車メーカの要求は複雑に、多様になり、設計の難易度は年々向上しています。加えて、自動車メーカからの仕様変更が多く、設計期間短縮も要望され、社内での実質の設計期間は短くせざるを得ない状況でした。設計者が残業して何とか間に合わせている状況であり、残業過多が問題視されていました。
このような状況から、設計標準化の次世代版として、属人的な設計をなくし設計品質を向上させつつ、設計工数削減を実現するための設計自動化を含めたMD式設計手順書整備に取り組みました。
■MD活動における課題と対応
【推進上の課題】
以前から取り組んでいた設計標準化のイメージがあり、設計標準化=実務では使えないものという認識をもたれていた為に、設計者が非協力的でした。その上に、設計者が多忙であり、工数確保が困難でした。
【対応】
前半の半年間の進捗が悪いことと、部長が描く設計標準化のあるべき姿とのギャップが大きいことから、部長が率先して推進の号令を掛けました。これに応えるように、12年目の中堅設計者が立候補し、専任者となることが決まりました。(この設計者は火中のプロジェクト応援に入っており、それがある程度ひと段落したことと、次のプロジェクトにアサインしないという部長判断がありました。)これによって、専任者が担当できる領域は推進し、設計手順書のイメージを持つことができたことにより、その他兼任メンバーも協力的に推進するようになりました。
【成果物取組上の課題】
暗黙知となっている領域がほとんどであり、形式知化に時間を要しました。暗黙知であったが故に、試行錯誤しているところ、理論設計せずに出来なりの形状で実機評価に依存していたところが隠れており、暗黙知も実は存在しない領域もありました。また、意匠面を含む部品の場合は、顧客要求の都度変わる内容であり、MD式設計手順書への落とし込みに悩みました。
【対応】
外部コンサルタントがインプット・プロセス・アウトプットの順にヒアリングをしながら、形式知化(MD式設計手順書への落とし込み)を進めました。その中で、第三者の目から見て論理的につながっていないところを深掘りして討議しながら進めることで、形式知化と整流化を同時に行いました。
また、MD式設計手順のフォーマットに、設計のノウハウをさらにわかり易くする為、考え方の形式知化に適した表や図に落とし込むことも行いました。そこからの学びとして、形式知化のコツは、専門知識は無いが論理的思考力ある人に説明できるように記述することでした。
■MD活動の成果物と効果
【成果物】
要求仕様一覧書:1ファイル
機能ブロック図:1ファイル
設計手順書:10ファイル
※実物は掲載できませんので、作成のベースとしたフォーマットを掲載します。
【効果】
わかりやすい効果の一例を紹介すると、従来は40時間程度(1週間)かかっていた上流の製品レイアウト設計が8時間で完了することが可能になりました。
時間短縮の要因としては、主に以下の3点です。
- 1. 機能ブロック図、モジュールテーブル(標準寸法等の一覧)の作成による情報検索時間の削減
- 2. 要求仕様一覧~設計手順書の整備による試行錯誤時間の削減
- 3. 設計手順書の計算自動化による計算時間の短縮
■インタビュイーの言葉
フォーマットに沿って設計手順を形式知化することによって、どこの領域に試行錯誤しており、どこはスムーズに設計できているのかが明らかにできました。ベテラン設計者であるほど、論理的な設計を行っている自負があったのですが、第三者の目で論理的にした領域こそが、今まで伝承できていないことだと判明しました。
また、読み物としての設計手順書ではなく、従来使っていた強度計算式等や寸法の決め方なども取り込んだ設計手順書であり、実用的なものということが、目から鱗でした。これを使い続け、常にアップデートしていく予定です。
■まとめ
推進していく上では、設計者の工数を如何に確保し、重要な活動であるという認識を社内で持つことが重要です。この事例では、部長が積極的な関与と専任者の推進力、つまりトップダウンとボトムアップの両輪が効果的でした。 今回の製品では外観意匠を含んでいることや、顧客要求に左右されることもあり、全てをMD式設計手順書に落とし込むことは困難でした。しかし、暗黙知を形式知化、試行錯誤から理論的設計への変換を目指して推進したことが実務に使える設計手順書に繋がったようです。 ECM/MD研究会では、今後もコラム等を通して、皆様の活動のヒントとなるような事例紹介を行います。また、JMN(製造業ネットワーク)を通じて、会員の皆様との情報交換、事例共有を行い、コラムとしてその知見を共有していきたいと思います。
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