モジュラーデザインから生産モジュール化へのつなぎ方

2021/02/28

-設計は部品の“種類”を減らし、生技・製造・調達は共通部品の“数量”を増やす-

 モジュラーデザインは、ECM(Engineering Chain Management)を「売れるモノを、造りやすいように図面化し、タイミングよく発行する」ように変革することで、開発費を低減するとともにSCM(Supply Chain Management)を最大限に機能させ、モノづくり全体で発生するコストを最少化して全社の利益を向上させることが大きな目的です。 また、モジュール化は末端の部品を見て標準化・共通化をしても、その場しのぎの改善に終わってしまいます。そこで、製品アーキテクチャーにまでさかのぼって改革し、新たな製品開発プロセスを構築し、SCMと連携することが成功の条件となります。  今回は、開発設計によりモジュール化された部品を、いかに製造へ展開し現場の生産性向上へ役立てるかについて、生産モジュール化へのつなぎ方を考えてみたいと思います。



1.設計と生産の両立を見える化する

 せっかく設計段階でモジュラーデザインを適用した製品群も、生産段階で生産の効率化へ活かせなければ意味がありません。ECM/MD研究会では、設計と生産の両者にとってのあるべき姿を定量的に見える化する指数として、MD指数(Modular Design)とPMD(Product Modular Design)指数を提案しています。  MD指数とは「部品種類数÷機種数」で表し、1機種あたりの部品の共通化の度合いを示し、低い方が部品の共通化率はよく開発設計部門の管理指標となります。また、PMD指数とは「部品生産数÷部品種類数」で表し、1部品(品番)あたりの生産効率の度合いを示し、高い方(1ロット大)が生産性はよく生産技術・製造・調達部門の管理指標となります。 図表1は、ある事業部で生産しているA・B・C・D 4つの製品群について、MD指数を縦軸、PMD指数を横軸にとったものです。A群は、1機種あたりの部品種類が多くMD指数が高く、さらに1部品(品番)あたりの生産数が少なくPMD指数が低いため、“設計と生産”泣かせの製品群であることが分かります。逆にD群はMD指数が低くPMD指数が高いため、理想的な製品群といえます。このように、MD指数とPMD指数により製品群の見える化が可能となり、開発設計部門と生産技術・製造・調達部門のあるべき方向性を示すことができます。ここでのポイントは、開発設計では1機種当たりの部品の「種類」を減らすこと、生産技術・製造・調達では1部品(品番)あたりの部品の「数量」(1ロット)を増やすことです。

図表1:設計と生産の両立を見える化するMD指数とPMD指数|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図表1:設計と生産の両立を見える化するMD指数とPMD指数



2.モジュラーデザインから生産モジュール化へつなぐ

 モジュラーデザインによる「部品の共通化」は、既存設計を使うことによる品質の安定化と開発スピードアップに貢献します。しかし、「部品の共通化」ができても、生産段階が従来と同じ製造方式のままでは効果は半減してしまいます。これらを解決するには、同じまたは類似な部品・ユニットを生産段階でまとめて作ることで、その効果は最大限に発揮されます。 図表2は、開発設計部門で行なうモジュラーデザインと、生産技術部門で行なう生産モジュール化の流れを表したものです。モジュラーデザインでは上位レベルの製品を対象に性能の範囲を決め、モジュール数をベースに一定の規則性を持たせる“レンジ化”により顧客ニーズを満足する多様な製品ラインアップを決定していきます。そして、ラインアップに対し準備されたユニットの組み合わせで新しい製品を開発する“モジュール化”を行い、材料・部品では種類を統一・共通化する“共通化”の順に、種類数を製品(多)→ユニット(中)→部品(少)と絞り込んでいきます。 これには、システムを構成する要素の相互作用を明らかにし、顧客ニーズとそれを構成するユニット・部品の固定すべき部分と変動させる部分を見極め、“材料の固定変動分析”を行い、部品種類削減のコンセプトを確立していくことが重要です。基本設計のコンセプトが完成したら、組立のための製品構造の単純化による組立の効率化、加工のための部品形状を加工しやすくする加工の効率化を、設備、金型・治工具などの情報をもとに、生産コストを最小にする詳細設計を行ないます。
 一方、生産モジュール化は、開発設計部門の詳細設計のアウトプットを受け、生産技術部門がIE(Industrial Engineering)による標準作業方法・標準時間をもとに最適生産方法を追求します。製品の製造工程は設備を中心とした部品加工から始まり、人を中心としたユニット・製品の組立工程へと展開します。主に設備中心の加工では類似を集め“数量”を最大化するマスプロダクションで加工作業の“類似化”を進めていきます。ここでは、ユニット・部品を加工・組み立てるための設備と人の作業方法を分析し、固定すべき作業と変動させる作業を見極め、“作業の固定変動分析”を行い、作業種類削減のコンセプトを確立していくことが重要です。
 しかし顧客ニーズに対応するには、個々の顧客仕様に迅速・柔軟に対応する“カスタム化”を行わざるを得ません。顧客ニーズと製造サイドの相反する関係を両立させるには、組立におけるカスタム化対応において、できるだけ加工・組み立て作業の変化を後工程で対応する“後変化”が重要になります。したがって、モジュラーデザインの効果を生産モジュール化で刈り取るには、開発設計部門により種類数を減らした材料・部品の単位(1ロット)当たりの生産量の少ないものは、加工作業の“類似化”で単位(1ロット)当たりの量を多くしていきます。つまり製造では、加工から組立へ向けて単位(1ロット)当たり加工・組み立て数量を多→中→少と展開していくことが大きな生産性向上へつながっていき、マスカスタマイゼーションを成功させる条件になります。


図表2:モジュラーデザインと生産モジュール化エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図表2:モジュラーデザインと生産モジュール化エンジニアリングチェーンマネジメント



3.組立工程における“後変化”へのバラエティ分析

 ここで、ある機械装置におけるフレーム組立から始まる5工程の組立工程の事例を見てみましょう。図表3は、縦軸に機械装置の構成部品の累積バラエティ数、横軸に構成部品の組立手順を取り、組み立てられていく構成部品の累積バラエティ数を表わしています。バラエティ数とは、あるシリーズ製品を構成している同じ品名に対する品番の種類数です。  横軸の最初に行なわれるフレーム組立はフレームが12種類(品番)、次のサイドカバーは13種類ありフレームとの累計で25種類に達しています。グラフの下の「種類数」は各部品の種類数で、「累積」は各部品を組み立てる時点の種類数の累計を表しています。 現状の組立作業は、“フレーム”“サイドカバー”“上下調整板”で種類が多く立ち上がりが急になっていて、“シャフト”から“センサ”までは緩やかな傾斜になり、最終的に108種類の機械装置が組み上がっています。


図表3:組立順序とバラエティ数|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図表3:組立順序とバラエティ数



顧客ニーズに応えるには、アウトプットである108種類の機械装置は必要であり、生産効率を追求するには、種類の少ない部品構造を初工程へもっていき変化を少なくし、後工程の部品種類を増やしていく“後変化”の組立手順が理想となります。しかし、理想に近づけるためには、現状では部品構造の制約により組立方法の改善では限界があります。 そこで、組立にとって効率的な製品構造のポイントを生産技術部門から開発設計部門へ提案し、情報交換を深め連携をとりながら最適な部品構造と組立工程における、“変化を後工程へもっていき、最初にまとめて作る”あるべき姿を追求しました。


  図表4はあるべき姿へ近づけるために、“後変化”の原則に従い、組立手順を変更した結果です。最初にバラエティ数の少ない主軸組立(3工程)・変速機組立(2工程)から始め、バラエティ数の多いフレーム組立(1工程)は後へもってきました。この変更には、工程の作業効率を開発設計者に理解してもらい、部品構造と部品同士のインターフェースの設計変更を実施しました。ここでの“モジュラーデザインから生産モジュール化へのつなぐ”ために、開発設計部門と生産技術部門のお互いのコミュニケーションの重要性は言うまでもありません。

図表4:組立工程の組み換えによる“後変化”への改善|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図表4:組立工程の組み換えによる“後変化”への改善



 図表4はあるべき姿へ近づけるために、“後変化”の原則に従い、組立手順を変更した結果です。最初にバラエティ数の少ない主軸組立(3工程)・変速機組立(2工程)から始め、バラエティ数の多いフレーム組立(1工程)は後へもってきました。この変更には、工程の作業効率を開発設計者に理解してもらい、部品構造と部品同士のインターフェースの設計変更を実施しました。ここでの“モジュラーデザインから生産モジュール化へのつなぐ”ために、開発設計部門と生産技術部門のお互いのコミュニケーションの重要性は言うまでもありません。



 今回は、“モジュラーデザインから生産モジュール化へのつなぎ方”について考えてみました。モジュラーデザインの活動は、開発設計から生産技術、調達、生産管理、製造、営業、サービス部門まで、全社一丸となり推進することが必要になります。この活動を確実に実施していくためには、ECMからSCMへつなぐ開発設計部門から生産技術・製造部門への連携が重要で、その方法はいくつか存在します。その選択にあたり大切なことは、一部署のコストメリットではなく、常に全社のトータルコストで有利な方法を選択することが重要になります。ぜひモジュラーデザインの活動が、全社を巻き込んだ大きな成果に結びつくことを期待しています。

参考文献

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