MD活動効果のキャッシュフロー化と経営指標への貢献

2022/01/31

 

-MD活動効果の見える化をするには-

 モジュラーデザインの効果の見える化は、MDを推進している企業においても当研究会でも大きなテーマです。MD活動は製品全体を俯瞰した活動で、活動には最低3年はかかるため、ボトムアップ活動では限界があり、当然、全社を巻き込んだトップダウン活動が必要になります。当研究会では、各部門が活動の目標値を事前に把握するために、MD導入前に行うコストダウンの可能性を見える化する“MD可能性分析”と、3年間の活動内容をコンパクトに体験できる“MD簡易版”を開発してきました。 モジュラーデザインの目的は、部品革新を行い多様な製品を少ない部品種類数で実現し、モジュールを共通の思想として上流・源流から下流に向けての開発プロセスを改革することです。今回は、部品種類削減によるMD活動効果が、キャッシュフロー効果と経営指標へどのように貢献するかについて考えてみたいと思います。

1:機能コストと種類コストの最適値をねらうモジュラーデザイン

 製品の原価は、材料費、労務費、製造経費で構成されています。これらの費目は、顧客が要求する機能・性能を満たすために発生する材料(原材料費・購入品費)、生産量に比例して変動する加工費(直接労務費・変動経費)などの機能優先の「機能コスト(変動費)」と、マスカスタム化対応において個別に発生する開発費、間接費(間接労務費・固定経費)、設備費、金型・治工具費などの「種類コスト(固定費)」に分けることができます。図1は、縦軸にこれら2種類のコストをとり、横軸に製品を構成している部品種類数をとっています。

図1:機能コスト(変動費)と種類コスト(固定費)の関係|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図1:機能コスト(変動費)と種類コスト(固定費)の関係

 製品開発において、最初に最適製品ラインアップを構築していくことは理想ですが、多くは顧客要求より機種が発生し、これらをもとにラインアップが構築されていきます。そして機種が増えるに従いコストダウンの必要性に迫られ、主に材料費はVE、加工費はIEの管理技術を使い機種ごとに「機能コスト(変動費)」を低減していきます。
「機能コスト」の低減により機種個別のコストダウンは進む一方で、こうした個別のコストダウン活動により多様な機種が発生し部品種類が生まれ、製品ラインアップ全体に掛かる「種類コスト(固定費)」は逆に増加してしまいます。つまり、「機能コスト」と「種類コスト」の関係はトレードオフの関係にあるため、図1に示すような「機能コスト」+「種類コスト」の最適値を追求することが必要になってきます。
モジュラーデザインでは、これら製品の多様化と製品の少数化のトレードオフを解消するために、モジュール部品を組み合わせて多様な製品を設計することを目指しています。


2:部品種類削減による各部門のコストドライバー増減による効果

 モジュール部品の最適化によりモジュール化された部品種類削減効果は、製造原価の材料費・労務費・製造経費の原価低減と設備投資・在庫投資(在庫低減)の抑制につながります。図2は各部署の部品種類削減による各部署の効果項目の増減とコストドライバーの関係を表しています。コストドライバーとは原価の作用因で、それぞれの仕事の作業量を増減させる要因となるものです。
 設計部門では部品種類削減により出図図面枚数が減り、設計工数・改善対応工数低減により設計リードタイムが短縮し、在庫投資も抑制されます。これらにより新製品開発工数が生まれ、新製品開発件数は増加し売上増へ貢献します。
 生産技術(生技)部門では部品種類削減により工程設計数が減り、生産準備工数・改善対応工数が低減し、ムダな設備・金型・治工具への投資も抑制されます。これらにより新工法設計工数が生まれ、生産効率を考慮した新ラインや新設備の開発件数が増加し売上増へ貢献します。

図2:部品種類削減による各部署の効果とコストドライバー|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図2:部品種類削減による各部署の効果とコストドライバー


 購買部門では部品種類削減により発注ロットが大きくなり部材の発注回数が減り、発注業務工数と調達物流コストが低減します。また、設計からの出図図面枚数が減り原材料・部品のロットがまとまり、スケールメリットによるコストダウンが可能となり、材料出庫回数も減り在庫投資も抑制されます。
 生産管理部門では部品種類削減により発注ロットが大きくなりスケジュール回数が減り、生産計画工数が低減します。また、段取回数・材料出庫回数が減り工程管理工数・仕掛在庫も低減します。品質管理部門では部品種類削減により品質が安定し、検査サンプル数が減り品質評価工数が低減します。また、段取回数が減り品質が安定し評価コストも低減し、不良・廃棄数が減り品質情報の提供も少なくて済みます。
 製造部門では部品種類削減により生産ロットが増え段取回数が減り、1回当たりの段取時間が短縮され段取工数が低減されます。また、品質も安定し検査数も少なく評価コストが低減し、不良件数も減り失敗コストも低減します。
 顧客との接点が多いメンテナンス部門では部品種類削減により補修する部品数が減り、故障修理工数・予防保全工数・備品管理工数を低減することができます。
 このように部品種類削減効果は主に間接部門の固定費への効果も大きいのですが、材料費や現場の生産性への変動費の効果も見逃せません。次に、設計部門や生産技術部門で削減された工数をどのように活用すべきかについて受注型製品と見込型製品について考えてみましょう。


3:部品種類削減により得られた効果をどう活用するか

■受注型製品

 受注型製品では、モジュラーデザインによる見積もり期間、設計期間、製造・据付期間の短縮による納品期間短縮が実現できます。そこで、過去に納品期間が競合他社よりも長いことが原因で失注したデータをもとに、納品期間と受注件数の関係のシミュレーション式を作成し、納品期間短縮によって増加する受注件数を見積もり、営業部門が見積もり受注件数を獲得するよう活動してキャッシュフロー化していきます。受注型製品は売価よりも納品期間が受注獲得の要因になることが多いので、このシミュレーション活動は重要です。

図3:受注型製品と見込型製品の効果の活用|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図3:受注型製品と見込型製品の効果の活用


■見込型製品

 一方、見込型製品では、商品企画、製品基本設計、詳細設計、生産準備などの期間が短縮されて市場導入までの期間の短縮が実現できます。競合他社よりもいち早く新規の製品を世に送り出すことができれば、先行者としての売上の増大をはかれます。売上増大効果ではありませんが、見込型製品は新モデルごとに膨大な整備投資を必要とするので、期間短縮して投資回収期間を短縮することは回収した資金を新たな投資に回せるので、身軽な経営ができるという大きな効果もあります。


■設計部門への工数の効果の活かし方

 受注型製品と見込型製品の両方に共通の売上増大効果は、MD活動で浮いた設計者を営業や品質保証部門に配転することによる売上増大効果があります。設計者や技術者の中には、何十年と同じ仕事をしているので会社にとってより付加価値の高い仕事をしたいと願っている人も少なくありません。社員の活性化と売上増大の一挙両得になります。


図4:設計部門の人材活用
|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図4:設計部門の人材活用


 さらに、MDで推奨している設計手順書整備による技術力向上で、商品力が高い製品の開発を可能にし、売上が伸びます。設計手順書は改定することが目的であるので、組織的・継続的にナレッジを蓄積し、手順書の質を高めていくことができます。加えて、新人の即戦力化、技術の伝承・継承、浮いた時間の創造的設計へのシフトなどもすべて最終的には技術力の向上に結び付いていきます。


4:MD効果を経営指標へ集約

 MD活動において、最終的な目的は経営指標の改善にあります。したがって、モジュラーデザインにより部品種類を削減することは手段です。図5はMD活動項目から“MD成果(関連部署を含む) /MD効果(キャッシュフロー) ”、さらには“経営指標関連項目”と最終の目的である総資本利益率(売上高利益率×総資本回転率)の関係を表しています。
例えば、MD活動項目の「製品モデル確立」はMD効果の「見積精度の向上・見積時間短縮」へ関連します。これらの効果は関連部署の「営業と設計」が恩恵を受け、それぞれMD成果の「売上増大」と「間接労務費削減」へ繫がり、経営指標関連項目の「売上高利益率向上」へ寄与します。
また「製品モデル確立」は「部品モジュール化推進」へも関連し、「設計からメンテナンス」まで多くが恩恵を受け、「在庫投資削減」へ繫がっていきます。これらは「総資本削減」に貢献し「総資本回転率向上」へ寄与します。

図5:MD活動項目から総資本利益率向上へ|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図5:MD活動項目から総資本利益率向上へ


 MD活動において、「総論賛成、各論反対」に遭遇します。これは、MD成果の各部門への効果の範囲が非常に多いため、やりたい事や目的が不明確なことが多いことが一つの要因です。MD活動を行う上で大切なことは、目的を明確にして関連部署とともに、何をどうしたいかを明確にしていくことです。
また「図2 部品種類削減による各部署の効果とコストドライバー」のコストドライバーとは原価の作用因で、それぞれの仕事の作業量を増減させる要因となるものですが、技術・開発部門の管理指標として、「新製品を開発すること(開発件数)」を設定しているケースがあります。しかしこれはインプットであり、アウトプットは「売れる製品を開発すること」で、製品を開発して開発件数が増えても、顧客が満足する売れる製品でなければ意味がないからです。このようにインプットが目的になっては、利益に結びつきません。したがってMD活動で得られた成果を、最終的にどのような管理指標を設定し利益に繋げるかが重要になってきます。
MD活動実施にあたっては目的に対する的確なMD活動項目を選定し、各部門の利益に直結するコストドライバーを明確化し、『総資本利益率向上』へ繋げていくことが必要です。



参考文献



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