【事例紹介】産業用機器メーカーA社におけるモジュラーデザインの始動

2022/01/31

 

-部門横断活動に向けて-

 JMN(Japan Manufacturing Network)活動の一環として、メール会員企業様と意見交換会を行いました。 その内容をコラムとしてまとめ、各企業のモジュラーデザイン活動の一助となることを期待して、事例共有をさせて頂きます。 今回のA社のケースでは、ECM/MDの取り組みをまさに開始し始めようとしている企画段階です。今後、設計部門だけでなく関連部門も含めて全社活動として開始できるよう企画・準備を進めているところです。同様に企画・研究中段階の企業にとって、ヒントとなれば幸いです。

■ 概要

  • 対象企業:産業用機器メーカA社
  • 対象部門:1事業部(設計部門にて企画中)
  • 目的:収益力向上、設計品質向上、設計工数削減
  • 施策: モジュラーデザイン
  • 取り組み期間:研究期間1年程度、仕様項目整備の活動半年程度
  • 製品特性:個別受注生産(ベースとなる標準品はありつつも基本は顧客要求に合わせた前モデルの流用設計)

■モジュラーデザイン導入の背景・狙い・現状

A社が取り扱う産業用機器では、多くのメーカが抱えるように中韓台メーカのコスト競争力には勝負できず、品質で勝負しなければならない状況です。当然の如く安住できることはなく、コスト削減の必然性はあり、品質を高め続ける必要があります。その様な状況の中、足元では品質問題が増加し、顧客からのクレームが増えています。 この要因を調査したところ、営業での受注時から仕様管理は行っているものの、個別仕様に関する自由記載が多く、仕様変更も多いことから仕様管理に不備があり、設計~製造を経て、製品になったときに仕様の認識違いが発覚していることがありました。 また、近年は収益の悪化も全社の問題となっていました。設計部門にて、MD指数(部品種類数÷製品種類数)を調査したところ、他業界企業や競合他社よりも圧倒的に大きいことが判明しました。部品種類数が多いことから設計も製造も効率が低く、収益圧迫の要因の1つとなっていました。 製品は個別仕様に対応しつつ、部品種類数の削減が求められることからモジュラーデザイン導入の企画を開始しました。現在は、現行製品の仕様の整備と、経営層にモジュラーデザイン導入の承認を得るべく準備中の段階です。

■導入に向けた課題と対応

【課題1:事業部長の理解と賛同】
モジュラーデザインの取組について説明したところ、まだ十分な理解は得られず、総論賛成・各論反対といった状況です。その理由として2点あり、1点目は、全社としての効果を明確に提示できていない点です。2点目は、取組内容が設計部門内に限定したものと思われている点です。 【対応案:研究会からの提案】 事業部長等の経営層に対しては、全社課題である収益性と品質の観点に紐づけて、効果試算と具体的施策内容のアピールが必要です。 案として、現状の品質問題の要因分析と品質コスト(クレーム対応費等)の分析を行います。品質問題の要因は、受注時の顧客仕様から設計仕様から製品へ落とし込まれたとき、どこかで仕様が欠落していると想定されます。これに対して、仕様の整備によって、仕様のトレーサビリティが確保されることで、品質問題を低減できるようになります。その結果、クレーム低減=クレーム対応費削減(売上高費○%で目標設定)=効果金額として試算できれば、事業部長の理解、納得を得られるのではないでしょうか。

図1:機能コスト(変動費)と種類コスト(固定費)の関係|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図1:MD効果の見積り※1

(関連コラム:ECM/MD活動により経営指標の何が変わるのか?


【課題2:営業部門の賛同】
事業部長が営業出身ということもあり、営業部門の賛同が必要と考えていますが、まだアプローチできていません。 現在、仕様項目整備を行い、最終的には営業に顧客ヒアリング時点の仕様書作りの際から活用いただけるものを想定しています。営業部隊は5名程度と少数精鋭&ベテランの為、賛同いただけるか未知数です。但し、リピート受注が多い中、過去製品の仕様書は自由記載や手書き項目も多く整備されておらず、活用できていません。過去製品仕様をデータベース化し、仕様書の使い勝手を向上することで営業部門の賛同を得たいと考えています。


【対応案:研究会からの提案】
営業部門のメリットを具体化することが必要です。例えば、少数精鋭であるが故に業務が人依存になっており、ベテラン社員退職の危機や新人育成が困難といった課題があると想定されます。仕様項目整備は、後継者育成や、受注時の顧客やり取りのスムーズ化、仕様書作成業務の効率化などのメリットで共感頂けるのではないでしょうか。また、課題1の通り、仕様項目整備は顧客要求の対応漏れによる品質問題の抑制にも効果があることなどが期待できます。 留意点として、モジュラーデザインや仕様項目整備の活動が、顧客からの個別仕様対応範囲が狭くなることではないと理解して頂くことが必要です。また、顧客から言われた通りの受注から、顧客の要望も包含したこちら側からの提案する受注形態への変容も必要です。営業目線では顧客満足度=個別受注の対応範囲を最も気にしていると想定されます。 営業のキーマンと営業部門の課題解決で貢献できることを議論し、事業部長の賛同を得る為にも部門横断の仲間づくりが肝となります。


【課題3:全社活動に向けて】
現状では設計部門にて企画している段階であり、各部門の賛同を得るに至っていません。最終的には製造部門の協力も得て進めたいと考えています。


【対応案:研究会からの提案】
課題1の事業部長の賛同を得ることにも繋がりますが、設計効率化だけの効果は限定的なので、調達、製造やサービス部門での効果も含めて、効果金額・メリットを明確化することが重要です。


①調達部門における効果
モジュラーデザイン導入により、製品、ユニット、部品の標準化が進みます。これにより、調達部門では部品種類数の集約、同一部品の発注量増加により、集中購買効果を得ることが可能となり、コストダウンが可能となります。部品標準化の際には、購買部門の知見を取り込むことにより、コストダウンに貢献しやすい部品や素材を選定できます。

②製造部門における効果
モジュラーデザイン導入によって、固定/変動部分の明確化やコアモジュール部品の定義ができた場合、モジュール部品による生産の平準化が可能となります。個別受注生産においては、受注状況に応じて、生産負荷のバラツキ=人件費負担のバラツキがあることを想定します。この場合、モジュール部品の生産平準化によって解決でき、人員配置の最適化や残業削減として効果試算できます。また、モジュール部品/ユニットとして半製品を事前準備できれば、製品の納入LT短縮に繋がります
(参考コラム:MD導入によるサプライチェーン効率化の可能性

③ サービス部門における効果
仕様項目整備により、サービス対象製品の仕様を的確に把握することが可能となり、サービス部門の効率化・工数削減となります。また、部品点数削減やサービス部品のモジュール化により、サービス部品保守管理費の削減などを見込めます。 今後、製品自体のIoT化等によって、さらに製品仕様と部品の複雑化が想定されますので、取組開始するには絶好の機会ではないでしょうか。 モジュラーデザインは、上記だけでなく調達部門等も含めてバリューチェーン上の各部門において効果を創出できる活動の為、各部門キーマンと議論し、効果・メリットを確認し合うことは必ず必要です。各部門での効果が確認できれば、モジュラーデザイン活動自体が社内で認知され、より推進しやすくなります。
図2:全社でのモジュラーデザイン活動|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図2:全社でのモジュラーデザイン活動


■インタビュイーの言葉
事業部長が営業出身者ということもあり、総論賛成だが、各論反対という状態でした。設計部門が中心となって進めて行くものの、設計部門だけの活動に閉じてしまうと本来のモジュラーデザインの形にはならない為、営業や製造部門の巻き込みと効果の見える化が重要ということがわかりました。これから各部門のキーマンにコンタクトをとり連携して進めたいと思います。個別受注生産品ではモジュラーデザインは必須の武器になると感じています。モジュラーデザイン導入済企業の事例も参考にしながら進めて参ります。 他社様でも同様の悩みや今後のヒントになる事例がありましたら、是非対話をさせて頂きたいです。

■まとめ
今回の事例は、モジュラーデザイン導入の際にぶつかる問題として多いと想定されます。本研究会のメール会員の多くは設計部門所属の方が多く、設計部門が主体となってモジュラーデザインの企画をするケースが多いです。実際はエンジニアリングチェーン全体、すなわち全社活動として行う必要があり、設計部門だけの活動では効果も限定的になります。部門横断の活動とすべく、全社や各部門の効果の見える化につなげ、全社活動に向けた一助となれば幸いです。 今回ご紹介した事例に関して同様の悩みや経験があるなど、A社と情報交換したいという方がいらっしゃいましたら、研究会までお問合せ頂ければと思います。 ECM/MD研究会では、今後もコラム等を通して、皆様の活動のヒントとなるような事例紹介を行います。また、JMN(製造業ネットワーク)を通じて、会員の皆様との情報交換、事例共有を行い、コラムとしてその知見を共有していきたいと思います。

参考文献



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