MD導入によるサプライチェーン効率化の可能性

2021/07/31

■初めに

 当研究会ではMDのコンセプトや業務について取り扱っておりますが、実際の会社経営においてはMDの導入が最終的にどのような経営成果を生むかが重要と考えられます。MDとはバリューチェーンの上流部分である設計にモジュール設計手法を適用し、その効果を設計だけにとどめず、調達、製造、物流、販売、アフターサービスにまで発揮させるモノづくり革新手法です。ただしMDによるサプライチェーン効率の改善には、MDに整合的なサプライチェーンの再構築が必要となります。本コラムでは、MDに基づくサプライチェーンの最適化とそれに基づく成果刈り取りに関して概説いたします。



■サプライチェーンの基本構造

サプライチェーンは一般的に設計~出荷までの一連の業務で成り立っています。これらによって顧客への製品、サービス提供が行われます。メーカーの場合、サプライチェーンにおける重要な情報は出荷される製品の種類と数量で、これは顧客の注文情報から取得されます。これがサプライチェーンの特定の業務にフィードバックされ、これに基づき各業務が協調して製品が顧客に届けられます。情報がフィードバックされる業務はサプライチェーン全体および個別業務のリードタイム、満たすべき顧客のQCDによって決定され、それによって生産形態が決定されます。

図1:サプライチェーンの基本構造|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図1:サプライチェーンの基本構造


■フィードバックポイントの決定要因

顧客注文フィードバックポイントによって、満たすことができる顧客のQCDのバランスは変化します。図2にフィードバックポイントとQCD関連パラメータのトレードオフを示します。例えばスーパーに製品を卸している食品会社であれば、短納期、低価格が求められるため、これらを満たすために見込み生産を行う必要があります。また例えば生産設備メーカーであれば、納入までのリードタイムが長い一方で、一品一様の対応を求められる、すなわち多数の品揃えを実現する必要があるため、受注設計生産を行う必要があります。すなわち、図2のうち「実現可能品揃え(Q)」「製造原価(C)」「納期(D)」のバランスが顧客のQCDに適合するように生産形態が決定される必要があります。

図2:顧客要望要因、在庫量と顧客注文フィードバック/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図2:顧客要望要因、在庫量と顧客注文フィードバック


■サプライチェーンの各業務

図3に示す通り、選択した生産形態に応じて受注後対応業務(=受注情報に基づく業務)と見込業務(=予測に基づく業務)の範囲が異なります。前述のとおり、JIT業務と見込み業務の範囲は生産形態によって決定され、受注後対応業務には短いリードタイムが求められ、見込み業務には高い予測性が求められます。これらのパフォーマンスによって図2に示したサプライチェーンのQCDトレードオフのバランスが決定され、最終的には需要フィードバックポイントが決定されます。リードタイムに関しては顧客が求めるQCDのうちDに当てはまる要素となり、各業務におけるリードタイムの短縮によって顧客が求めるリードタイムに対してサプライチェーン全体のリードタイムを十分に縮めることができれば、また予測精度の向上に基づき、十分に経済的な見込み情報に基づく業務が実現できれば(この点は複雑なため、本コラムでは取り扱いません)需要フィードバックポイントの変更を通じた生産形態の変更が可能となります。


図3:サプライチェーン上の業務と見込業務/受注後対応業務の関係|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図3:サプライチェーン上の業務と見込業務/受注後対応業務の関係


■MDのサプライチェーン改善可能性

冒頭で述べたMDに基づくサプライチェーンの最適化は、定数である顧客のQCDに対して、サプライチェーンが実現できる納期、製造原価、品揃え、その裏側にあるリードタイムと予測性をMDにて改善することで、顧客QCDへの適合性を維持したまま顧客注文フィードバックポイントを変更することが可能となり、サプライチェーンの効率性改善につなげることができます。具体的にはモジュラー在庫を前提とすることでのコストとリードタイムバランスの改善、モジュラー組み立てを前提とすることによる製品バリエーションとコストのバランス改善等が考えられます。


■受注設計生産における例

受注設計生産へのMD導入によるサプライチェーン構造の変更例を図に示します。上はMDが導入されていない一般的な受注設計のサプライチェーン模式図です。個別性の高い受注設計生産の一般的な課題として、見積、材料調達の長いリードタイムがあげられます。また材料加工、最終組み立てにおいては、操業の繁閑、治具の増加によるコスト増大、および製品の個別性を反映した長いリードタイムという課題があります。ただし特別な施策がなければ、需要フィードバックポイントの変更(=生産形態の変更)は、顧客に提供すべきQCDバランスの観点から困難です。これらに対してMDを導入し、サプライチェーンを再構築した例が下となります。MDによって実現できる見積の自動化、材料調達、モジュラー生産の見込化、在庫化、モジュラー組み合わせによる品ぞろえの実現という施策をサプライチェーンに導入することにより、設計、調達および最終組み立てのリードタイムが削減可能となり、生産形態を受有組み立て生産に変更することが可能となります。材料在庫、モジュラー在庫の増加と引き換えに、操業平準化、治具の減少による原価低減および納入LTの短縮を、品ぞろえを維持しつつ実現することができるようになります。材料在庫、モジュラー在庫は数量予測が容易であり、また全体のリードタイムが削減されるため在庫総量も限定されます。まとめると、MD導入によって限定された量の在庫発生と引き換えに、納入リードタイムが短縮され、製造原価の低減がなされます。これは競合に対してコストと納期の観点から大きな競争力を得ることを意味します。


図4:受注設計生産へのMD導入例|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図4:受注設計生産へのMD導入例


■最後に

今回のコラムでは、サプライチェーンの基本構造とMD導入による構造変化による効果を、受注設計生産を例に概説しました。個社において対応している顧客のQCDは異なるため、MDの導入によるサプライチェーン構造変化も個社ごとに異なると考えられるため、個社への導入は都度検討が必要となる点に留意が必要です。個社のサプライチェーン構造を考慮し、MDによる実行施可能施策を用いてサプライチェーンを適切に再構築することにより、より多くの経営成果を刈り取ることが期待できます。



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