製造業の働き方改革はモジュラーデザインから

2022/02/28

 以前のコラムで、モジュール化によりニーズに即応した製品の迅速な市場提供が可能になり、収益の向上、労働時間の短縮、生産設備の効率化などが実現し、労働生産性が向上することを説明しました。
<参考コラム>モジュール化によって生産性は向上する
この時に提示した就業者一人当たりの労働生産性の順位は現在さらに低下しています。(下図)

図1:機能コスト(変動費)と種類コスト(固定費)の関係|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]


今回のコラムは、国を挙げて推進している「働き方改革」にモジュール化がどのように貢献できるかを考えてみたいと思います。

1.厚生労働省が推進する「働き方改革」事業のポイント

厚生労働省のホームページでは「働き方改革」の目指すものとして以下のように述べられています。
我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
 <参考>「働き方改革」の実現に向けて |厚生労働省


この検討のなかで、9個の検討テーマと19個の対応策を示し、2026年までの実行計画を提示しております。その中で、企業が身近に感じるテーマと対応策を挙げてみます。

検討テーマ 対応策
1.非正規雇用の処遇改善 1.同一労働同一賃金の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備
2.非正規雇用労働者の正社員化などキャリアアップの推進
2.賃金引上げと労働生産性向上 3.企業への賃上げの働きかけや取引条件改善・生産性向上支援など
 賃上げしやすい環境の整備
3.長時間労働の是正 4.法改正による時間外労働の上限規制の導入
5.勤務間インターバル制度導入に向けた環境整備
6.健康で働きやすい職場環境の整備

我が国では、低い生産性と長時間労働により、低い企業収益率と低賃金が30年以上継続しています。このような現状は少子高齢化による生産労働人口の縮小とともに、我が国の経済に長期の後退局面を生みだしていると思います。厚生労働省の対応策は、このような現状を、様々な法制の整備や指導によって変化を促がそうとしているように感じます。これらの検討テーマは組織が持つ「深層の競争力」です。従って対応策は「組織能力」そのものの向上に目を向けることが必要になります。


2.このような課題が生まれる原因を製造業で検討する

厚生労働省がこのような施策を検討している頃に、モジュラーデザインの提唱者である日野三十四氏は、我が国の本質的な存立基盤である「加工貿易」国としての製造業における製品開発の課題を次のように要約しています。(改定版まえがき)
(1)製品開発が場当たりで体系的ではない
(2)個別製品ばかりに目を向けて「木を見て森をみない」擦り合せ設計をしている
(3)設計のノウハウが属人化されていて組織的に利用していない
(4)徒弟制度で新人設計者を育成しているので、一人前になるのに数年かかる

このような課題から以下のような無駄なコストの発生や販売の低迷を指摘しております。

a.設計・試作・試験費を高くしている
b.購買が多種少量の個別製品を高い値段で買わざるを得ない
c.多くの機械設備や金型、治具、検査員などの用具が生じ
 段取り替えが頻発することで高い製造固定費になる
d.体系的でない製品展開のために少数の顧客しか獲得できない
e.多くの補修部品が膨大な維持管理費を発生させる
f.全社的な目に見えない事務管理費を発生させる

現状の課題(1)~(4)がa~fのような様々なコストや販売低迷を生みだし、長時間労働の割には売上高も利益も生まれないのが現状です。そして、製造、販売、流通に従事する方々とその関係者がムリ・ムラ・ムダな時間を浪費していると思います。課題(1)~(4)をモジュラーデザインがどのように解決して、労働時間を短縮し、働く楽しさを生みだし、収益を向上し、製造業の「働き方改革」の原動力になるかを、みていきたいと思います。


3.製造業の課題へのモジュラーデザインの適用

モジュラーデザインとは、互換性が高い少数の部品(モジュール)を事前に複数設計しておき、それらを組み合わせて多様な製品を設計する計画的な設計手法です。製品の多様化を進めつつも、できる限り部品種類を減らしコストダウンを図ることを目的としています。(図1)

図1:モジュラーデザインのイメージ|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図1:モジュラーデザインのイメージ


多くの製造業では新製品を作るたびにその製品専用の部品が増えていきます。専用の部品を作るということはその部品を作るための専用の金型、専用の工具、検査治具なども必要になり、試作にもコストがかかります。専用部品の新規設計を減らし、これまでの製品と共通の標準部品を採用すれば、設計や試作にかかるコストを削減でき、今ある設備で製造できるため新規設備の投資額を抑えたり、標準部品の発注量を増やし大量購買によって部品単価を下げたりすることが可能になります。(上記a,b,c,e,fの解決)しかし、今ある共通の部品ばかり使っていると製品のバリエーションが生まれず似たような製品ばかりになり、そもそも顧客の要求仕様が満たされなくなることが考えられます。(上記dが残る) 部品の共通化や標準化を進めながら、製品の多様化を図ることで、これらを解決するのがモジュラーデザインの考え方です。このような相反する要求を実現するには、製品に求められる機能を定義し、事前に設計された共通部品の組み合わせで製品のバリエーションを増やすことを可能にする製品開発プロセスの革新が求められます。


4.モジュラーデザインを実現する製品開発プロセス

モジュラーデザインによる製品開発プロセスの要点は前述の(1)~(4)の課題に応えることです。
 (ⅰ)体系的な製品開発プロセスとする(システムズエンジニアリング)
 (ⅱ)製品群全体を対象にして設計情報を整流化する(DSM)
 (ⅲ)設計手順を形式知化し、常に更新する(設計手順書)
 (ⅳ)体系的で俯瞰的な設計手順をもとにルーチンワークをシステム化する(設計自動化)
(ⅰ)や(ⅱ)を実践するには、開発プロセスの手順と作業項目の明確化が求められます。
モジュラーデザインを実践するために必要な作業項目を表1に示します。

表1:モジュラーデザインを推進する作業項目|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

表1:モジュラーデザインを推進する作業項目

以上のような作業を通して製品と部品の関連を明確にし、モジュール化すべき部品やユニットを決めていくために、モジュラーデザインでは様々な手法を提供しています。これらの手法を表2に示します。

表2:モジュラーデザインの手法|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

表2:モジュラーデザインの手法

表に示すように、「製品モデル」によって製品に関する市場要求から製造までの情報の整流化を図り、「設計・製造連携VE」によって長期間競争力のある機能部品を生みだし、その設計手順を形式知化して常に更新することによって、設計力の向上と自動化を可能にします。(ⅲ),(ⅳ) これらの工程を実践することにより、少数の部品で多様な要求に応える製品群を整備し、常に更新していく体制を整えることが可能になります。(dの解決) 以上みてきたようにモジュール化やモジュラーデザインを実践することで、設計、製造、販売、流通と関連する人たちの生産性が向上し、企業収益の向上が見込めることで、待遇改善にも資することになります。 しかし、 様々な効果があるモジュラーデザインですが、以下のような課題も考えておかなければなりません。

①導入のハードルが高い
 我が国の製造業は、既存製品の流用が経験者の暗黙知で進められています。さらに、顧客との契約が口頭での協議が多く、書面にしても書かれていない項目が存在します。このような体質から抜け出すには相当なエネルギーが必要です。 顧客からの要求仕様が明確に製品仕様と対照し、適切なモジュールを準備できていないと、結局は専用部品を新規設計することになります。そのため導入にあたっては、モジュールとして切り出す部分の設計の考え方や、長期に渡って要求を満たすための仕様を持つモジュールを用意しなければなりません。モジュールのパラメータをJISZ8601「標準数」に合わせて点数を絞っていくなど、実現するためには専門知識を多く必要とするため、自社内のリソースだけで完結するのは非常に難しい面もあります。

②導入後の工数増
 設計者は、膨大なモジュール群から顧客の仕様に合致するものを、複数の組み合わせパターンで検討するという作業を繰り返し行うことになります。結果として「探すより作る方が早い」という状況が生まれます。そのため、モジュラーデザインを導入する際は、設計者を支援するシステムの導入も検討が必要です。組み合わせを瞬時に探してくれる「コンフィグレータ」や設計手順の自動化プログラムなどです。現場で根付くような施策が無いと、結局コスト増などの弊害が生まれる可能性があるので留意が必要です。
以上、働き方改革にモジュール化やモジュラーデザインの導入の意味をご説明しました。すでにご検討されている皆様もおられると思いますが、実施し始めて戸惑うことも多いのではないかと推察しております。そのような際には、当研究会にお問い合わせいただき、他社の事例や研究会メンバーの知見などでご支援したいと考えております。 ご遠慮なくお問い合わせください。



参考文献



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