モジュール化によって生産性は向上する

2019/05/31

 以前のコラム「ECM/MDを構築することにより企業の収益は大幅に向上する」ではECM/MDが企業の収益を高めることを説明しました。 今回はモジュール化が生産性を向上する理由をその原理から考えてみます。

1:生産性の意味と高めるための方向性

最初に生産性の定義を明確にしておきたいと思います。生産性とは投入した資本に対してどれだけの付加価値が生まれたかということを数値化したものです。日本生産性本部の定義では; [付加価値(=人件費+経費+経常利益)]=[売上高―外部から購入した費用]  [1人当たり労働生産性]=付加価値÷労働者数 で、 [1時間当たり労働生産性]=付加価値÷(労働者数×労働時間) です。 2017年における1時間当たり労働生産性は;日本 47.5ドル、米国 72.0ドル、ドイツ 69.8ドル です。 生産性を決める要素は;①付加価値、②労働者数、③労働時間 になります。

「労働生産性の国際比較2018」|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

「労働生産性の国際比較2018」

稼ぐ力を比較すると、日本は大人数で長時間労働しないと同じ金額を稼げないことになっています。

[10,000ドル稼ぐ労働時間]OECD、IMF資料|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

[10,000ドル稼ぐ労働時間]OECD、IMF資料

生産性を高めるには、①付加価値を上げる、②労働者数を減らす、③労働時間を減らす ことが必要になります。 付加価値を上げ生産性を高めるために企業経営者が検討することがらは
a.産業構造の変化、b.ビジネスアーキテクチャーの変化、c.業務プロセスの見直し、d.労働者のスキルの見直し になります。産業構造は技術の進化、市場のグローバル化やそれに伴う多様なニーズへの適応などに伴って常に変化しています。産業構造の変化に伴いビジネスアーキテクチャーを見直し、業務プロセスや労働者のスキルを再構築し続けることが求められています。近年の産業構造を大きく変化させているのはICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の進化と産業への波及です。第4次産業革命と呼ばれています。我が国の労働生産性が低い原因は、産業構造の変化に即してビジネスアーキテクチャーを見直していない旧態依然とした考え方が組織の行動を規制しることに起因します。  そこで、生産性を高める手段の一つである[モジュール化]の意味と、我が国が得意としてきた
[インテグラル(擦り合わせ)]の功罪について考えてみたいと思います。


2:モジュール化の意味と産業への適用

モジュール(module)とは本来、寸法を表す言葉です。例えば建築の分野では「基準寸法」のことをモジュールと呼びますし、機械の分野では「歯車の歯の大きさを表す単位」のことをモジュールと呼びます。これらはいずれも「基準となる寸法」を表すことから、「その基準によって交換可能となった構成要素」のこともモジュールと呼ぶようになりました。「規格化されている」「交換可能である」「独立性が高い」「何かの部分である」点が共通しています。 「モジュール化」とは、製品や組織活動の機能を分割し、分割された機能間のインターフェースを標準化・規格化することで、分割された機能が独立性を保ちながら進化できることで、製品や組織活動が常に更新できるようなシステムです。 コンピューター産業が「モジュール化」によって大きな発展を遂げたことをきっかけに、広く経営の分野でも「モジュール化」の重要性が指摘されるようになりました。例えばパソコンは、メモリーやハードディスクなどの「標準化された部品」を組み立てて生産できる仕組みになっています。従って、各々の部品をどのメーカーが生産しても、全体としては問題なく動作するわけです。しかも、個々の部品が独立して性能を向上することに経営資源が投入でき、②労働者の減少や③労働時間の短縮につながり、結果として労働生産性の向上と、産業全体の発展につながりました。 産業構造のモジュール化により、業界では「国際的で水平的な分業体制」が確立されることになりました。そこで経営に関するさまざまな分野(生産・業務プロセス・組織形態など)において、「モジュール化」の有用性が認められるようになりました。現在進められているIndustry4.0の動きは、産業構造のモジュール化を進め、各モジュールが独立に成長することで、全体の生産性を高めようとする活動です。


3:モジュール化とインテグラル(擦り合わせ)

モジュール化に対してインテグラル(擦り合わせ)という考え方があります。インテグラルでは複数の構成要素が機能するには構成要素間ですべての情報を調整して最適化します。要求性能を忠実に実現する上では適しているかもしれませんが、調整が複雑になり手戻りや機能確認が不十分になるために、開発期間が長くなりコストが大きく品質が不安定になります。このためインテグラルな業務プロセスでは必然的に生産性は低くなります。我が国の製造業はインテグラルな業務プロセスのほうが良い品質の製品が作れると信じてきました。しかし、グローバル化した市場では、多様化するニーズに俊敏に応えることが困難になっています。ICTを活用する上でもインテグラルよりモジュール化されているほうが、システム化は容易です。

モジュール化とインテグラルの業務プロセス|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

モジュール化とインテグラルの業務プロセス

製品のモジュール化は製品開発の初期段階で、営業・企画・設計・調達・製造・アフターサービスのすべての組織知を集約し、想定されるシリーズ製品を準備します。準備されたシリーズ製品から個別の受注に対しては即座に製造手配に移れます。インテグラルでは、段階を踏んだ調整が繰り返されるために、製品化の期間が長くなり、受注機会を失ったり、利益が圧迫されたりします。 製品のモジュール化には以下のメリットがあります。

  1. (1)製造コストの低減(設計・製造工程が単純である)
  2. (2)部品の組み合わせ自由度が向上(部品単位で低価格・高性能・短納期を選択できる)
  3. (3)独立した部品開発が可能となり、特化した優良企業の創出を促す
  4. (4)部品の生産設備を持つ必要が無い最終製品メーカーは変化へのリスクが少ない

結果として、②少ない労働者で③短時間労働で製品を市場に出すことができ、①付加価値の高い製品開発に経営資源を投入することができ、売上高増にもつながり労働生産性を高めることになります。


4:モジュール化を適切に進める上での考慮事項

以上述べましたように生産性に寄与するモジュール化ですが、その適用については考慮すべき事柄があります。モジュール化を機能の統合化や種類の削減といった視点で進めると、あらたな市場要求の変化に応えられずに陳腐化し、すぐに役立たなくなります。また、特定の機種では効果があっても、類似の機種には応えられないため、思ったほどの効果が出ないこともあります。モジュール化を成功させるには、現場の各部門に蓄えられた個人の持つ暗黙知を形式知化し組織知として集約すると同時に、将来の市場動向や関連機種の全体を一括して、製品革新の動向を見極めながらモジュールを開発することが必要です。そのためには、組織知を集約する上でのインテグラルが必要で、ここに我が国が得意とする能力を発揮することが求められています。





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