マスカスタマイゼーションに向けたモジュラーデザイン活用法

2019/05/13

 以前のコラム「マスカスタマイゼーション事例とモジュラーデザイン」では、マスカスタマイゼーションの事例紹介とモジュラーデザインの必要性について紹介しました。本コラムでは、モジュラーデザインをどのように活用するのかについてケースを用いながら紹介します。
前回取り上げた事例を分かり易くする為に製品を“Tシャツ(ポケット有無)”に統一した以下の3ケースとします。(図1参照)

  1.  ケース①:3Dプリンターの活用(MINIのケース)は、Tシャツのポケットのみ5色から選択可能
     サイズはS/M/Lの3種展開とします。
     (製品種類数:ポケット有(5色×3サイズ)+ポケット無(1色×3サイズ)=18種類)

  2.  ケース②:コンフィギュレーションの進化(NIKEのケース)は、Tシャツの全6パーツを
     それぞれ5色から選択可能、サイズはS/M/Lの3種展開とします。
     (製品種類数:ポケット有(5色の6乗×3サイズ)+ポケット無(5色の5乗×3サイズ)=56,250種類)

  3.  ケース③:オーダーメイドの進化(ZOZOのケース)は、Tシャツの全6パーツを
     それぞれ5色から選択可能、サイズはユーザデータに応じた展開とします。
     (製品種類数:∞)

    また、モジュラーデザインの内、マスカスタマイゼーションに重要となる考え方として、”製品ラインアップ表”に着目して解説します。(製品ラインアップ表:製品機能を実現する方式・機構・構造などのシステムを展開した構成に製品サイズを決定する要素を組み合わせた表)


図1:ポケット付きTシャツと部品構成|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図1:ポケット付きTシャツと部品構成


ケース①:ポケットカラーバリエーションTシャツ

本ケースでは、着丈違いでS/M/Lを展開することとし、製品ラインアップ表を図2のように作成しました。このときに、着丈にモジュール数(標準数)のR40数列を適用しました。また、ポケットのカラーバリエーションについては、部品構成表(E-BOM)に、ポケットパーツにのみ5色分を設定するのみです。(下図参照)(モジュール数(標準数)については、書籍『実践モジュラーデザイン』p72、または『標準数』出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』を参照) ベースとしたMINIの事例では、ダッシュボードや外装のパネルに好きなデザインを描き3Dプリンターで生産するオプションサービスでした。Tシャツのケースで同様のカスタマイズとすると、ポケットにユーザが設定した図柄の刺繍を入れることが考えられます。この場合は、設計現場よりも生産現場の方が対応の難易度が上がる為、ユーザのオーダー情報とサプライチェーンを連携させる必要が出てきます。

図2:製品ラインアップ表(ケース①)|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図2:製品ラインアップ表(ケース①)

ケース②:カラーバリエーションTシャツ

製品ラインアップ表は、ケース①と同様ですが、全ての部品が5色となった為、ケース①よりも生産現場の対応の難易度が上がります。ユーザのオーダーに応じて製品を生産し、確実に届ける為には、ユーザのオーダー情報とサプライチェーンの連携が必須です。ユーザへ素早く製品を届けるには、この領域をIT化することが不可欠です。 これには投資が必要となることから、先に紹介したNIKEのように大手メーカが取り組んでいるケースが多く見られます。ベースとした事例のNIKEのカスタマイズスニーカーは、ベースのスニーカーに対して各部位の生地・色が選択可能となっており、web上で注文可能です。


ケース③:カラー&サイズバリエーションTシャツ

本ケースになると、製品ラインアップ表の作り方が大きく異なります。ケース①②では、製品ラインアップ表の製品サイズ決定要素は着丈のみで、身幅は参考値(一意に決まる為)でした。しかし、ユーザの身体にフィットさせるには、着丈と身幅のラインアップを増やす必要がある為、下図のように組合せで表します。また、着丈と身幅に適用するモジュール数は、フィット感を高める為に、R40より間隔の細かいR80とします。(図3参照)

図3:製品ラインアップ表(ケース③)|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図3:製品ラインアップ表(ケース③)

製品ラインアップ表を定義したことにより、着丈7種×身幅8種=56サイズの展開にすることができます。この製品ラインアップを予め定義しなければ、ユーザの身体データに応じて着丈1mm違いの製品が生まれることとなり、生産での対応は非現実的となってしまいます。 上記の製品ラインアップ表では、着丈と身幅のみを定義したのみであり、各パーツの寸法、およびインターフェースの各寸法は定義されていません。この各寸法を定義する為に、設計を進める上でどの仕様に対しどの寸法を採用するかの手順を記した“設計手順書”の整備が必要となります。設計手順書の整備方法については、別コラムにて紹介の予定です。

総括

ケース③の様に製品種類数が無限大となるマスカスタマイゼーションは、今後より一層増えると想定されます。その際に、商品企画では製品ラインアップ表を、設計では設計手順書を予め整備することが必要です。そうすることで、オーダーごとの個別対応は必要なくなります。 今回は身近なケースとしてTシャツを取り上げましたが、金型を必要とする部品の場合は、その部品の共用率・流用率をいかに高めるか留意が必要です。 製品の全組合せを想定した上での製品ラインアップ表の構築には、労力を要しますが、このラインアップを定義することから、製品多様化-部品種類数最小化のモジュラーデザインの世界を実現する一歩となります。





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