サーキュラー・エコノミー(循環経済)とモジュラーデザイン

2023/2/28

  近年、地球温暖化が叫ばれる中、相変わらず世界の経済モデルは資源を採取し、商品を製造し、消費し、廃棄する一方通行のサイクルが繰り返されています。採取された資源のうち、使用後に新たな商品として生産システムに還元されるものは約5%と言われています。近い将来、この経済モデルは必ず限界がくることが予想され、早急に変えていかなければなりません。今回は、これらの経済モデルの限界の対応策の1つであるサーキュラー・エコノミーの必要性・メリットを確認しつつ、モジュラーデザインが果たすべきあり方を考えてみたいと思います。


 

1.サーキュラー・エコノミーへ転換への経済効果

歴史的に世界経済は目覚ましい発展をしてきました。しかし、このまま従来の生産・消費パターンが資源への過度の依存や資源の枯渇を促進し続けた場合、経済的なバリュー・アット・リスク(予想最大損失額)は2030年までに630兆円、2050年までに1,400~5,600兆円に達すると予想されています(アクセンチュアグローバルチームによる膨大な量の研究や分析、文献調査、インタビュー、ケーススタディー実施の試算:1ドル=140円換算)。 しかし、このことを逆の視点から考えると、限りある資源の利用と成長を分離し、一方通行型経済モデルでの「無駄」をなくしビジネス・ソリューションを構築することで、2030年までに630兆円の価値を創出することができます(図1)。しかし、この価値を創出するには4つの「無駄」があると言われ、これらの無駄をなくす対策とその効果は以下のようになると予想されています。


  1. (1) 資源の「無駄」をなくす
      再生可能エネルギー、バイオ燃料、化学製品、原材料の活用で、238兆円の成長可能
  2. (2) 製品のライフサイクル価値の「無駄」をなくす
      再販、再生産、修繕、長寿命化、資産の最適化サービスの促進で126兆円の成長可能
  3. (3) キャパシティの「無駄」をなくす
      シェア、共同所有、共同利用、資源共有によって84兆円の成長可能
  4. (4) 潜在価値の「無駄」をなくす
      リサイクルやアップサイクル、部品の再利用の拡大やエネルギーの回収で182兆円の成長可能


図1:サーキュラー・エコノミー転換への経済効果|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図1:サーキュラー・エコノミー転換への経済効果
出典:「サーキュラー・エコノミー」「サーキュラー・エコノミー・ハンドブック」
日本経済新聞出版 を追加・修正


サーキュラー・エコノミーへの転換は大切ですが、サーキュラー・エコノミーを成功させるためにテクノロジーと同じくらいもう一つの重要な要素は、新たな業務スタイルを後押しする“組織的能力の整備”です。この後押しがなければ、新たなモデルを実践してもメリットが得られないばかりか、余計なコストを負担する危険性にさらされることになります。
例えば、

  • サーキュラー型の製品を設計したものの、廃棄製品を管理する機能や
    パートナーを確保せず、設計改良のメリットが得られない結果に終わる
  • 機能や技術が生み出す付加価値が、継続的な顧客エンゲージメントに
    つながるか不透明なままライフサイクルを提供している
  • 十分な検討をせずに代替製品の提供し、競合メーカーとの共食いで
    かえって売上を減少させてしまう危険性
  • メーカーはより耐久性の高い製品を提供することで製品の購入頻度は
    減るため、新たな収益源となるサービスが提供できなければ収益は減少する
  • 製品へのアクセスを提供するサービスでも、顧客は製品自体を保有する必要がないため
    製品の売上減少分を補うような付加サービスを提供できなければ、収益低下は避けられない

などのケースがあります。

これらの失敗を繰り返さないために、サーキュラー・エコノミーでは、次の「サーキュラー型の価値ループと5つのビジネスモデル」を構築しています。

2.サーキュラー型の価値ループと5つのビジネスモデル

 サーキュラー型の価値を創出する5つのビジネスモデルは図2のように、「サーキュラー型のサプライチェーン」「シェアリング・プラットフォーム」「PaaS(サービスとしての製品)/Product as a Service」「製品寿命の延長」「回収とリサイクル」です。これらの取り込みは、地理的条件、産業、ビジネスの規模と構造、製品タイプにより異なりますが、これらのモデルは相互に関わり合って、これらが連携することにより最大の影響力を生み出す可能性があります。  また、「サーキュラー型のサプライチェーン」「製品寿命の延長」「回収とリサイクル」の3つは“生産”に重きを置き、「シェアリング・プラットフォーム」「PaaS」の2つは“消費および製品と消費者の関係”に重きを置いています。

図2:5つのビジネスモデル|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図2 5つのビジネスモデル
出典:「サーキュラー・エコノミー」「サーキュラー・エコノミー・ハンドブック」
日本経済新聞出版 を追加・修正


 「サーキュラー型のサプライチェーン」はデザイン、調達、製造の段階で製品を構成する“原材料”に注目し、再生可能な資源などの原材料は、資源の無駄をなくすことを目的として、他のすべてのモデルの足掛かりになります。  「製品寿命の延長」は、製品を最大限利用し、ライフサイクルの無駄を回避することを目的とし、初期段階の設計における製品デザインと最適調達から始まり、できるだけ長く製品を使い続けることを念頭におきます。さらに、これらは「シェアリング・プラットフォーム」「PaaS」の実現に大きく貢献します。  「シェアリング・プラットフォーム」「PaaS」は、製品そのものではなく、顧客にとって機能またはサービスを購入することで“製品効用”を再発見します。  「回収とリサイクル」は、製品が寿命を迎えたら、内包される原材料やエネルギーを製造サイクルに戻し、調達から使用、そしてまた調達へ戻るように“ル―プ”を閉じます。


3.5つのビジネスモデルに対するモジュラーデザインの貢献

 ここで、サーキュラー・エコノミーの5つのビジネスモデルに対し、モジュラーデザインと関係が深いのは、“生産”に重きを置く「①サーキュラー型のサプライチェーン」「④製品寿命の延長」「⑤回収とリサイクル」の3つになります。そこで、これら3つに対するモジュラーデザインの貢献について考えてみたいと思います。

図3:サーキュラー・エコノミーとモジュラーデザイン|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図3:サーキュラー・エコノミーとモジュラーデザイン


(1)「サーキュラー型のサプライチェーン」への貢献

「サーキュラー型のサプライチェーン」の目的のためには、循環型、またはより持続可能な素材を使うことが求められます。原材料の再生を前提とした素材または部品を簡単にバリュー・チェーンに戻せるような、使用後に解体、修繕、再製造できるデザインや使用後に再生可能または土に還る素材を選択する必要があります。
 具体的には

  • サイクルされた素材または再生可能な素材や再製造された部品を使う
  • 最小在庫管理単位と過剰在庫による無駄を減らす
  • より資源強度の低い無害な代替素材を選ぶ
  • 製造工程における無駄を排除または最小限に抑えるようデザインする

などが挙げられます。
 モジュラーデザインでは、「将来設計する製品の全体を眺めて製造設備や用具を何種類かに定め、それらで造られる少数のモジュラー部品を準備しておいて、モジュラー部品を組み合わせて多様な製品を設計する、事前の一括的かつ計画的な設計である」をコンセプトとしています。 ドイツ・アディダス社では、100%リサイクル可能としたランニングシューズを開発しました。このシューズはひもやアッパー、ソールなどシューズを構成している全ての部材を同一の素材で構成しています。素材は熱可塑性ポリウレタンで、各部材は圧着しており、接着剤も使わない画期的なものであり、シューズとしての形状はもちろんのこと、強度や柔軟性も兼ね備えています。

図4:日経ものづくり 2020年1月号 P.54・P.55|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図4:日経ものづくり 2020年1月号 P.54・P.55


モジュラーデザインでは、まずはデザイン(設計)段階において、顧客ニーズのカスタム化を損ねない製品ラインアップを構成しつつ、それらを最小限の種類の部品・素材を用意することを目指しています。ここに、サーキュラー型の体系を考慮し、モジュラーデザインの技術を応用することが大きな貢献へ結びついていきます。


(2)「製品寿命の延長」への貢献

「製品寿命の延長」の目的のためには、製品寿命がなるべく長くなるように、使用中の環境への影響を減らすことです。そのためには長持ちする製品の製造が必要で、耐久性があり、モジュール式で、修理・アップグレードができ、使用効率の良いデザインが求められます。  モジュラーデザインでは、最初に製品モデルを構築し、市場要求→製品仕様構成(製品機能構成)→製品システム構成と展開していきます。この際に、市場要求に対し耐久性が求められる機能やアップグレードが求められる機能をモジュールとして確保していきます。具体的には、上流の製品仕様構成から、製品システム構成へどのように展開していくかを検討し、製品の特徴からみた場合のモジュール化のタイプ(6つのモジュール化方式)を選定します。この際、製品にとってのコアと顧客対応でのカスタマイズの領域、将来アップグレードが期待されるユニットごとにモジュール化していくこと、また1つのユニット(モジュール)の中に複数の寿命年度の部品がある場合にも寿命ごとに分けることがポイントになります。  企業は今までは、“量”を売り、シェアを拡大し、利益を追求してきましたが、これからは長寿命化をすることによって、製品の“量”から“期間”へ切り替え、一度獲得した顧客に対し、修理・アップグレードを長期間可能にし、製品ライフサイクルの“期間”を長くし、利益を追求していくことが必要です。


(3)「回収とリサイクル」への貢献

「回収とリサイクル」の目的のためには、製品やサービスとして提供するビジネスモデル用に、高度な設計仕様と高品質な原材料を採用し、製品の寿命と耐久性を向上した設計が求められます。 製品が不具合を起こした場合、モジュール化された製品であれば、不具合を起こしたユニット・部品のみを交換・修理することで、ユニット・部品の交換、修理、改修、再生産、リサイクルに加え、アップグレードやメンテナンスがより簡単に低価格で実施可能となります。 モジュラーデザインでは、モジュール数(標準数)を使い、顧客の要望する製品の基本性能と外形寸法を構築していきます。具体的には該当する製品諸元に等比数列を適用すると製品の品揃え効率(=顧客獲得数÷品揃え数)が最大化し、等差数列を適用すると部品と部品の互換性が高まると言われています。モジュール数は、製品構成にとどまることなく、ユニット・部品へ展開した際、これらを加工・組立の設備にも適用することにより生産の効率化・自動化へ展開することにより、生産性向上にも寄与します。  また、モジュール化された製品が不具合を起こした場合、不具合を起こしたユニット・部品のみを交換・修理する必要性が出てきます。そして、メーカー側が製品を回収し、積極的に二次利用を促進するために、モジュー化で備えることも必要です。その際、ユニット・部品同士のインターフェースが重要になってきます。分解し易い設計のためにはインターフェースはシンプルなほどよく、そのために部品と部品を連結する「インターフェース」部分を事前にルール化するために、“デザインルール”を設定し部品・モジュール間の相互依存性を低減することも検討していきます。これにより、不具合の際、部品・ユニット交換をスムーズに行うことが可能になります。


 以上、今回のコラムでは、サーキュラー・エコノミーの必要性・メリットを確認しつつ、モジュラーデザインが果たすべきあり方を考えてきました。このサーキュラー・エコノミーに対しモジュラーデザインの果たすべき役割は、計り知れないものがあると思います。  現在研究会では、一般社団法人産業環境管理協会(JEMAI)様、一般財団法人日本規格協会(JSA)様と連携を取りながら、特にデザイン(設計)段階でのモジュラーデザインの貢献について議論をしています。  欧州では、欧州会議により合意された10R(Reduce、Reuse、Recycle・・・)やサーキュラー・エコノミーの規格化の足音も聞こえてきています。ぜひ、認証を得るための規格ではなく、モジュラーデザインにより地球規模での循環経済、さらに“資源循環経済”のあるべき姿の一助を担えるような活動を今後とも進めていきたいと考えています。

参考文献



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