モジュラーデザインとVE・DFM・GT・IEで製造原価のトータルコストダウンをねらう
2023/9/30
製造業として多くの製品を開発し製造・販売をしている中、製造原価の特徴を踏まえながら、効率よくコストダウンを推進することが必要です。そこで今回は、開発設計・生産技術部門のエンジニアリング・チェーン(EC)におけるコストダウンを、モジュラーデザイン・VE(Value Engineering)・DFM(Design For Manufacturing)・GT(Group Technology)・IE(Industrial Engineering)がどのような役割を担うかを考えてみたいと思います。
1.擦り合わせ設計からモジュラーデザインへ
モジュラーデザインは、「将来設計する製品の全体を眺めて製造設備や用具を何種類かに定め、それらで造られる少数のモジュラー部品を準備しておいて、モジュラー部品を組み合わせて多様な製品を設計する、事前の一括的かつ計画的な設計手法」を目指しています。現在、差し迫っている地球温暖化の問題に対しても、上流段階である開発設計・生産技術段階でのモジュラーデザインの役割は計り知れないものがあると思います。モジュラーデザインは、設計の方法を擦り合わせ設計からモジュラー設計に変えることで、製品の多様化と部品の少数化という二律背反課題を克服して少ない部品種類で多様な製品を生み出す設計手法です。
具体的には、将来設計する製品の全体を眺めて製造設備、金型・治工具の生産機材の種類を何種類かに定め、それらで制作可能な少数のモジュラー部品を準備しておき、モジュラー部品を組み合わせて多様な製品を設計していきます。事前の一括的かつ計画的な設計をすることにより、総部品種類数が抑えられ1機種あたりのMD指数(総部品種類数÷機種数)は低くなります。逆に,擦り合わせ設計では顧客に対し個別対応となり、部品種類数が次から次へと発生し、MD指数は増加していきます。 一般的に固定費は、製品別原価計算において各種の配賦基準をもとに各製品へ按分されてしまうため、コストダウン効果が見えにくい欠点があります。固定費は生産数量が増えると1個当りは低下し、減少すると1個当りは高くなるため、MD指数は、わかりにくい固定費を見える化する大切な指標になります。
2.部品種類数を少なくするモジュラーデザイン
ここで、エンジニアリング・チェーンの役割を担う上流段階の開発設計部門と生産技術部門のモジュラーデザインにおける業務の役割について考えてみたいと思います。 開発設計部門では部品の種類数を低減し固定費削減、生産技術部門では単位当たりの生産量(1ロット)を増やし、生産モジュール化により現場の生産性向上を目指します。
図2 MDの進め方の青い枠で囲まれた開発設計部門の領域をご覧ください。モジュラーデザインでは、常に上位レベルの製品→ユニット→部品を対象に“レンジ化”“モジュール化”“共通化”の検討を進めていきます。
(1)レンジ化
モジュール数を活用した製品仕様の“レンジ化”から始め、性能の範囲を決め一定の規則性を持たせ無駄のない製品ラインアップを構築していきます。
(2)モジュール化
次に、準備されたユニットの組合せで製品仕様を実現するシステムを構成していきます。ここには、システムを構成するユニットの相互作用を明らかにするDSM(Design structure matrix) が“モジュール化”に有効です。DSMは製品設計において、優先度(影響度)の高いユニットを見える化し、各ユニットの関係性とユニット(モジュール)内での情報の関連を明確にするツールです。
(3)共通化
ユニットの優先順序と完結性が明確になったならば、製品のレイアウトを検討し、VEを活用し最適構造を検討していきます。VEは価値と機能・コストの関係を「V(Value)=F(Function)÷C(Cost)」で評価し、製品価値を高めることを目的としています。したがって、製品機能を分解しシンプルな機能部品を組み合わせながら多機能化を目指し、部品の多機能化により無駄のないシンプル構造を追求し、材料・部品の種類を統一する“共通化”の順に行っていきます。
中心部分の対象・目的の“種類”は、多→中→少へと変化し、製品レベルではカスタム化を目的としているため製品種類数は“多”になり、それを構成しているユニット種類数では“中”、また部品種類数ではモジュラーデザインの目的である“少”の追求していくことが重要です。
以上で設計のコンセプトが完成したならば、次はDFM(Design for Manufacturing)により、組立のための製品構造の単純化による組立の効率化、加工のための部品形状を加工しやすくする加工の効率化などを検討していきます。これらの情報をもとに“生産モジュール化”へとバトンを渡していきます。
3.単位あたりロット数を増やす生産モジュール化
図3 生産モジュール化の進め方の青い枠で囲まれた生産技術部門の領域をご覧ください。生産モジュール化は生産技術部門が開発設計部門のアウトプットを受け、設備中心の加工→人中心の組立の工順のもと“類似化”“後変化”“カスタム化”の検討を進めていきます。
(1)類似化
まずは類似部品を集めマスプロダクションで対応する“類似化”から検討を始めます。類似化を実現するツールとして、“GT:グループ・テクノロジー”があります。グループ・テクノロジーは、部品形状は異なっていても段取が共通な工程であれば、類似グループとして扱っていくという考え方です。
たとえば、図4のような丸棒を加工する場合、直径を共通化して長さ方向を変化させた場合、段取替えはほぼ共通になり類似グループとなりますが、直径方向の変化は段取替えが必要なため非類似グループとなります。
この時点で、共通形状・類似形状・類似工程を集め“類似化”の検討を行い、1ロット当りの生産量を増やすマスプロダクションを実施していきます。
(2)後変化
加工工程ではなるべくロット数をまとめ、“数量/単位”を“多”にし、段取替えが多く発生する“数量/単位”の“中”以下の部品は後の工程で工程バラエティをもたす“後変化”で対応することが大切です。
したがってモジュラーデザインの効果を生産モジュール化で刈り取るには、種類数を減らした対象部品を生産量の少ないものから狙っていくことも重要です。部品加工においては、対象・目的の“数量/単位”は、1ロット当りの生産量を増やすことを意味しています。 モジュラーデザイン研究会ではPMD指数(部品生産数÷総部品種類数)を考案し、1部品当りの生産数を見える化し、PMD指数の増加が生産性向上へ寄与する指標としています。
加工面では設備を中心に“類似化”を追求しロットをまとめることに心掛け、後工程で変化に対応する“後変化”を目指します。この目的は少量のものを多量にして生産することで量産効果を期待します。
(3)カスタム化
最後は人を中心とした組立工程へと進み、個々の顧客仕様に迅速・柔軟に対応する“カスタム化”を展開していきます。この際にも、組立工程の最初は可能な限り類似なものを集め、カスタム化対応のバラエティは後に持っていくことが重要です。
生産技術部門では、通常IEの管理技術を使い生産性向上をトータル的に考えていきます。ちなみにIEの定義は、「IEとは、人、資材、情報、設備、およびエネルギーの総合したシステムの設計、改善、および実施に関することを扱う。その場合にIEはこれらのシステムから得られる結果を規定し、予測し、評価するために、工学的な分析と設計の原理と方法の原則とともに、数理科学、自然科学および社会科学における専門知識と経験を利用する」です。生産技術部門では、非常に大きな範囲で生産性向上を考えています。これらの源が開発設計段階の結果より反映されていくため、今さらながら開発設計段階の重要性を再認識させられます。
4.種類と数量でモジュラーデザインの効果を評価する「部品指数」という考え方
モジュラーデザインの効果を見える化をする指標として「部品指数」があります。部品指数は、シリーズ化された製品群の部品構成を「総部品点数×総部品種類数」で見える化します。改善前と改善後の部品指数を比較することにより製造原価の特に固定費に対するおおよその効果を推定することができます。
一般に、部品指数が改善後と改善前に対し50%減になると、工場のあらゆる生産性に大きな成果が表れると言われています。したがって、総部品点数30%減、総部品種類数を30%減すると約50%(≒0.7×0.7)減になります。縦軸の総部品点数削減は、材料費・直接労務費・電力量などの変動費に、横軸の総部品種類数の削減は、間接労務費・間接費・設備の減価償却費・金型治工具費などの固定費の削減に寄与していきます。 図6は、ある搬送ユニットの部品構成における具体的な部品指数の分析方法を示しています。この搬送ユニットは“1000”から“7000”シリーズの5機種に対応していて、13種類の品番で構成されています。たとえば“送り軸”は、4種類の品番を持ち5機種に対応しています。“カバー”は、5機種すべてに共通で品番は1種類のみで、それぞれの部品の種類数は、右辺の「部品種類数計」に記載されています。
また5機種に対する部品構成は、それぞれの機種名を縦にみた数字が部品数となっています。たとえば、機種1000では、送り軸は“S356-11021”が1個、ベアリング抑え“E105-10023”が2個使用されていることを示し、それぞれの部品構成数の合計は表の下の「部品構成数計」になります。これらをまとめ、表の右下に、総部品点数の合計35(7+7+7+7+7)と総部品種類数の合計13(4+2+1+3+3)を表記しています。したがって部品指数は、35(総部品点数)×13(総部品種類数)=455 となり、50%を目標値とすると、総部品点数は25 (35×0.7) 点、総部品種類数は9(13×0.7)点で、部品指数は25×9=225となります。このように、総部品点数と総部品種類数の目標値を設定し、各部品とその組み合わせの見直しを検討していきます。
5.MD、VE、DFM、GT、IEのトータルでの効果を部品指数で評価する
図7 各技法の部品指数削減の役割は、総部品点数、総部品・工程種類数の削減の各技法の役割を整理したものです。この図の横軸は、「総部品種類数」からあえて「総部品・工程種類数」として製造工程まで含め、部品構造と工程を一体とすることで成果に結びつくことを表してみました。 以上、前述の各種技法の部品指数における役割をまとめると、縦軸の「総部品点数」を削減するには、VE・DFMを、横軸の「総部品・工程種類数」を削減するには、MD・DFM・GT・IEを使い分けることで、トータルの「部品指数=総部品点数×総部品・工程種類数」を削減することができます。
今回は“モジュラーデザインとVE・DFM・GT・IEで製造原価のトータルコストダウンをねらう”ことを考えてみました。モジュラーデザインは製品ラインアップ全体を俯瞰した技術です。そこにVE・DFM・GT・IEの技術をプラスしていくことで、さらなる大きな効果へと結びついていきます。昨今、サーキュラーエコノミーなど環境を配慮した製品設計でも長寿命化も考慮することも重要です。技術は目的を明確にし、適材適所に活用することで、より一層の効果を発揮します。ぜひ、エンジニアリング・チェーンを担う、開発設計部門・生産技術部門、さらに実際に製品を形にする製造部門・購買部門、最後はサービス・メンテナンス部門との連携を綿密に行い、各種技法を有効活用し、全体最適のトータルコストダウンを追求していただければと思います。
- 参照文献
- 「実践 モジュラーデザイン 改定版」 日野三十四 日経BP
- 「IEレビュー310号」 日本IE協会
- 「コスト1/2計画」鈴江歳夫 日本能率協会マネジメントセンター
- 「グループ・テクノロジー」 H.オーピツ (社)日本能率協会
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