【事例紹介】モジュラーデザイン実践企業における導入後の課題
2023/10/31
JMN(Japan Manufacturing Network)活動の一環として、モジュラーデザイン実践企業様と23年6月に意見交換会を行いました。 その内容をコラムとしてまとめ、各企業のモジュラーデザイン(以下MD)活動の一助となることを期待して、事例共有をさせて頂きます。
今回は実践企業の2社にご参集頂き、各社の現状と課題について討議を行いました。特に社内定着や人材育成の観点では共通の課題認識がありました。MD導入中または導入を予定している企業にとって、ヒントとなれば幸いです。
■A社概要
- 対象企業:産業用機器メーカA社
- 取り組み期間:MD製品発売から約10年
- 製品特性:個別受注生産(ベースとなるカタログ製品に対して顧客要求に合わせた部分カスタマイズ)
■A社におけるMDの現状
A社ではMD製品発売後10年が経過しており、社内でその製品は定着しており、売上の多くを占めています。MD製品導入・販売・生産によって、設計工数は従来の4分の1となり、生産効率化の効果も得られています。一方で、プロジェクト発足当初から設計主導で行ったため、他部門の巻き込み不足や関心の薄さに繋がっており、MDは設計部門が行うものという認識が続いています。
■課題1:他部門との連携
営業部門は受注を取るということを重視しており、設計に必要な顧客要求情報を全て入手してくるとは限りません。MDで理想とする形は設計や生産に必要な顧客要求情報を標準化・一元化することによって、設計自動化までつなげることですが、A社では断片的な情報入手になっており、営業―設計でのやり取りは残っています。また、製造部門においても生産効率化の効果はあるはずですが、次世代製品については設計がやってくれるものという認識になっているため、製造や営業も待ちの姿勢になっています。
■課題2:後継者の育成
MD次世代製品開発やMDの定着化や発展ができておらず、また、それらをリードするMD後継の適任者も不在という状況です。MDは構築された製品モデルや設計手順書だけを覚えれば良いというわけではなく、自社のものづくりバリューチェーン全体の理解や新製品開発に関する知見、他部門を巻き込むリーダーシップなど、多様な能力・スキルを必要とします。それらがベースとなった上で、新製品含む商品ラインアップにどのようにMDを適用するかを検討できるようにMD考え方・手法を習得することが定着化や発展に必要です。 この為、A社では、MD考え方・手法の習得の前に、ものづくりに関する基本的な知識・スキルの習得を目指し、人材育成を行っています。
■B社概要
- 対象企業:建築向け専用機器メーカB社
- 取り組み期間:MD導入から約10年
- 製品特性:個別受注生産(部品標準化はあるが建築案件ベースとなるカスタマイズ製品)
■B社におけるMDの現状
B社では、MD導入当時より営業が入手した顧客情報を設計まで繋ぎ自動設計にて完了させるというゴールを目指して活動を継続しています。プロジェクト発足時より、営業部門の巻き込みを行っており、顧客要求項目の標準化、データベース化が行われ、現在も“案件カルテ”として運用されています。またエクセルの設計手順書による自動化が推進され、もれなく顧客要求をヒアリングし設計へ伝える形が整っています。現在は、エクセルの設計自動化に留まらず、CADとの連携やコンフィグレータの導入へと進展しています。またこれらの功績が社内でも認められMD推進の専任組織が設置されました。
■課題1:専任組織と設計部門との乖離
MD導入当時からのメンバーが中心となり専任組織化され、現在も導入や発展は継続しているものの、実設計部門への導入となると乖離が生じます。エクセル設計手順書などの導入の為の教育等は行っていますが、設計部門では業務の設計が多忙になると、どうしてもMDに関する教育等の比重が下がってしまう傾向があります。また、ベテラン設計者になるほどエクセル設計手順書を使わない傾向にある為、運用が100%徹底できないという課題があります。MDを絶やさず日常的に100%使うツールに落とし込む為に、CAD連携等の設計ツールの進化を進めています。
■課題2:後継者の育成
専任組織は設置されたものの、A社と同様に後継者の育成に悩んでいます。十分な人材は配置されていないことから専任組織はツール構築や導入に注力しています。MDの教育に関しては設計部門に対して、ツール活用に関する教育がメインになっています。中長期的にMDの手法理解の推進と永続的に使われる仕組みにすべく後継者が必要になりますが、そこまでの人材育成プランができていません。
■まとめ
共通している課題として後継者の育成があります。これはこれまでのアンケート結果からも垣間見える、モジュラーデザイン自体の考え方と手法の難しさ、理解のし難さにも通ずるところですが、ものづくりバリューチェーン全体や事業自体にも関わること、他部門とも関わることなど知識やスキルが広範囲に必要なことに起因しています。そもそも設計者だけでなく企業内での人材育成に課題感を持たれている方は多いのではないでしょうか。MDを題材としつつ、ものづくり全体を教育材料として人材育成のプランに織り込むことを推奨します。
MD導入後においては、作成済の製品モデルや設計手順書を用いて技術教育を行うことや、若手設計者の持ち回りで設計手順書等のMD関連文書の更新を行うことで、定着と発展、教育を同時に図れます。
また、MDが設計部門中心の活動であると誤認識されるケースがあり、その結果関連部門の巻き込みができていないケースも多くあると思います。事実、この当研究会のメール会員の所属を拝見すると圧倒的に設計部門の方が多いです。本来はものづくり事業全体に関わることですので、営業、企画、調達、生産など各部門や経営層の方にも関心を持って頂き、プロジェクト当初より全社活動にすべきことを推奨します。この為、MD成功に向けて、トップダウンで推進すること、及び実務リーダーのリーダーシップが必要条件になります。
今回ご紹介した事例に関して同様の悩みや経験があるなど、掲載しました2社と情報交換したいという方がいらっしゃいましたら、研究会までお問合せ頂ければと思います。 なお今回の事例を題材に23年11月1日に開催予定の講演会でも講演を予定しております。また、JMN(製造業ネットワーク)を通じて、会員の皆様との情報交換、事例共有を行い、コラムとしてその知見を共有していきたいと思います。
次回JMNは久しぶりのリアル開催(時期:24年1月頃、場所:東京)を予定しております。講演会やホームページでも改めてご案内いたしますので、皆様のご参加をお待ちしております。
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