データドリブン逆展開で進めるモジュール再構築
2026/1/31
■はじめに
日本の製造業の多くは、長い事業運営の歴史のなかで、コストダウンや事業の最適化という目的で標準化(Standardization)やモジュラー化(Modularization)を進めてこられました。また、事業形態としては、市場や製品の性質を踏まえると、まったく新しい製品をゼロから開発するケースは決して多くありません。むしろ、既存の製品とそれを構成する部品・ユニットの最適化を通じて事業効率を高めたいという目的で、モジュラー化に取り組まれている企業が大半ではないかと考えています。
一方で、多くの文献が紹介しているような「マーケット分析 → 要求仕様展開 → 機能展開 → モジュールインターフェイス定義」といった順展開のプロセスを、改めて自社製品に適用し直すには、時間と労力が非常にかかります。さらに、モジュラー化の効果は事前に正確な予測が難しいことも知られており、こうした不確実性がモジュラー化プロジェクトの着手をためらわせる要因になっているケースもあるのではないでしょうか。
そこで本コラムでは、既存製品を起点にモジュラー構造を再構築する 「データドリブン逆展開」 というアプローチをご紹介します。この方法では、まず現行製品のデータを整理し、モジュールの種類やバリエーション理由を明確にしながら、全体構造の整合性を確認していきます。そのため、従来の順展開型アプローチと比較しても、短期間で効果的にアーキテクチャの再構築を行うことが可能です。
逆展開を実施するうえで重要なのは、プロセス全体がデータでつながっていることです。各工程がExcelやWordなど個別の文書で管理されている場合、データの連携が難しくなり、分析精度や再構築のスピードにも影響が出ます。一方で、市場要求・技術的見解・製品構成などが相互にリンクされたPALMAのようなモジュール管理ツールを活用している場合は、「データドリブン」にこの逆展開プロセスをより効率的かつ確実に進めることができます。
本稿では、モジュラー化に関する知見と、日本の製造業が直面する現実の課題を踏まえながら、データドリブン逆展開が持つ意義と具体的な進め方について紹介します。
■データドリブン逆展開プロセスの全体像
データドリブン逆展開プロセスとは、従来のように「市場 → 要求 → 機能 → モジュール」と段階的に積み上げる方式とは異なり、既存製品の実データを起点としてモジュールアーキテクチャを再構築するアプローチです。市場変化が激しく、製品ライフサイクルが短縮する現代において、従来手法では膨大な工数と時間が必要なうえ、成果の確実性も十分とはいえません。これらの課題に対して、現状を可視化し、構造的な問題を発見し、改善策を逆算する手法が逆展開プロセスです。
まず、既存ラインアップや製品構成データを収集し、主要モジュール(ユニット・サブアッシー)を特定します。これはカタログ、BOM、販売実績、サポート履歴などのデータを体系的に整理する作業であり、構造上の共通点・差異・バリエーション理由が明確になります。その後、抽出したモジュールをPALMA の MVS(Module Variant Specification)に登録し、種類ごとの差異が生じる技術的・市場的理由を二元データとして入力します。これにより、従来は暗黙知に依存していた判断根拠が形式知化されます。
続いて、登録されたモジュール情報を用いて製品構成を定義し、現状のラインアップがどういったモジュールの組み合わせで成立しているかを可視化します。ここで整合性を確認しながらアーキテクチャを再構築することで、不要なバリエーション、似通った部品、コピー&ペーストによる構成増殖などの非効率を特定できます。また、DPM(技術的見解)や QFD(要求仕様)と連携させることで、市場要求と技術仕様の間にあるギャップを発見し、改善すべき方向性が明確になります。
このデータドリブン逆展開は、上流工程を一から設計し直すのではなく、現実の製品データから“最適解”を導くアプローチであるため、短期間で成果を得られ、データに基づいた高い確実性で投資判断が可能になります。また、PALMAを中心としたモジュラー管理ツールにより、データの自動連携・整合性確保・可視化が進むため、属人化や部門間のデータ断片化といった日本企業が抱える課題の解決にも直結します。総じて、この逆展開プロセスは、
- •製品ラインアップの最適化
- •モジュール設計の合理化
- •部品種類数の削減
- •開発期間の短縮
- •コストの構造的低減
- •環境規制や市場変化への迅速対応
など、多面的な効果を同時に実現する、現代製造業に最適化されたアーキテクチャ改革手法です。
■モジュラー管理ツールPALMAについて
Modular Management社が開発し提供しているモジュール管理アプリケーションソフトウェアPALMA(Product Architecture Lifecycle MAnagement)は、今回のテーマであるデータドリンなモジュール仕様データ管理と運用を可能にしています。次に今回の手法で有用な機能について説明します。
1. 二元データによる入力の簡便さ
PALMAでは、モジュール管理や製品構成の入力が「二元データ」(例:縦軸=モジュール種類、横軸=分岐理由や属性)というシンプルな表形式で行えます。Excel感覚で直感的に入力できるため、複雑な設計情報も容易に整理・登録できます。
この方式により、設計・営業・サービスなど異なる部門でも、同じフォーマットで情報を扱えるため、入力ミスや情報の抜け漏れを防ぎやすくなっています。
2. 各データが常に連携している
PALMAでは、モジュール情報・製品構成・技術的見解・要求仕様など、各種データベースが常に相互にリンクされています。例えば、モジュールの種類を変更すると、関連する製品構成や技術的根拠、要求仕様にも自動的に反映されます。
これにより、設計変更やバリエーション追加の際も、全体の整合性を保ちながら効率的に運用できます。
3. どこからでもデータを操作可能
PALMAデータはエクセルのような二元表で構成され、市場、ニーズ、要求、仕様、パラメータなどが二次元で表現されており、それぞれのデータは常に連携しています。従ってどのツールBOXからでもデータ編集を行うことが可能となっています。
また、PALMAはクラウド型のSaaSプラットフォームであり、インターネット環境があれば社内外・拠点を問わずアクセスできます。
設計部門・営業部門・サービス部門など、どの部門からでもリアルタイムにデータを閲覧・編集できるため、部門間の連携や意思決定が迅速に行えます。
また、PLM/ERP/CADなど他システムとの連携も可能で、業務プロセス全体をシームレスに統合できます。
PALMAは、二元データ入力の簡便さ・データ連携の強さ・どこからでも操作できる利便性によって、モジュラー化・製品構成管理の効率化と品質向上を実現しています。
■データドリブン逆展開プロセスによるモジュラー再構築のステップ
既存製品(モジュール)を使ったデータドリブン逆展開プロセスによるモジュラー再構築は以下のステップで進めます。
1. 対象製品の選定
事業効率化や市場要求に応じて再構築が必要な製品を選定する。販売台数、利益率、サポートコストなどを基準とする。
2. 製品ラインアップ・カタログの特定
過去の販売データやサポート履歴をもとに、現状の製品ラインアップを把握する。
3. 構成モジュールの特定
部品表(BOM)や設計図面から、主要なモジュール(ユニット、サブアッシー)を洗い出す。
4. モジュールデータベースへの登録
PALMAのMVSツール等にモジュール情報を登録し、属性や関係性を一元管理する。
5. モジュール種類・分岐理由の整理
技術的・市場的理由を記録し、バリエーションの背景を明確化する。
6. 製品コンフィグレーション定義
登録したモジュールを組み合わせて製品構成を定義し、最適なパターンを検討する。
7. 技術的見解の記録
設計上の判断や技術的制約をDPM(Design Property Matrix: 特性実現管理)ツールに記録する。
8. 要求仕様との紐付け
QFDツールに市場要求や顧客要望を記録し、技術的解決策と紐付ける。
9. モジュール体系化と評価
各データベースをリファインし、妥当性や市場適合性を評価。必要な是正を行い、最適なモジュール構成による製品ラインアップを再構築する。
以上で製品ラインアップを構成するモジュール名称と種類及び種類が分れる理由(仕様)が記述されました。ここからは、各データベースをリファインすることで、現状のモジュール種類が適切であるかどうか、モジュール種類がコピーペーストなどで同じものが作られた形跡が発見され、市場要求によって正しい仕様が展開されているかどうか、これを正しい技術的見解に基づいて行ったかどうか、などが評価されます。評価がされると、これを是正することができ、自然に正しいモジュール構成による製品ラインアップの再構築ができることになります。
この作業と並行して行っていただきたいのは、現在カタログに存在する製品が正しいラインアップとなっているかに踏み込んでいただきたいです。このためには過去10年位に遡るか、営業とサービスで製品サポートを継続している製品の中で何台(何機、何セット)売れていたか、のデータを得ることです。中には10年間で数台しか販売されていない製品もある事例も聞いています。数台に対して開発調達生産準備サポートの各部門は1000台以上販売されている背品と同じだけの労力が使われているからです。数台の機種が1000台の機種に対して販売価格が数倍高く十分利益が得られていることが分っていれば良いのですが、多くの企業では販管費のような間接費は製品原価に対して賦課されていないと思われます。製品の最適化は構成するモジュールの最適化にもつながります。
■適用事例(A社)
A社では、PALMAを活用したモジュラーアーキテクチャの導入を進めています。モジュラー化された既存製品データをインプットし、製品モジュール定義のfit&gap(適合・非適合)を明確化することで、短期間で多様な製品バリエーションの整合性確認を実現しています。モジュラー化の効果として、部品種類数の最大90%削減、製品コストの最大60%削減、開発期間の最大50%短縮などを目指しています。また、環境規制への対応として、廃材の回収・再利用や低炭素素材の開発など、資源循環型の技術開発も積極的に推進しようとしています。社内では、暗黙知の形式知化や部門横断的な知見共有、ガバナンス強化が課題となっています。同社ではPALMAで構築されたモジュールデータベースを起点として、PLM,ERP,CRMとの連携を試みています。
A) モジュラーアーキテクチャ適用プロジェクト
• 製造業A社では、市場において多様化する顧客ニーズや環境性能の向上要求に対応するため、モジュラーアーキテクチャの導入を進めています。特に、製品アーキテクチャ管理ソフト「PALMA」を活用し、既存製品データをインプットして製品アーキテクチャの文書化・共有化を目指しています。これにより、将来の製品ラインナップデータや製品間のfit&gap(適合・非適合)を明確化し、短期間で幅広い製品バリエーションを実現する体制を構築しています。
B) モジュラー化による効果
• モジュラー化の導入により、部品種類数の削減や開発期間の短縮、コスト削減などの効果が確認されています。たとえば、過去の実績では部品種類数を最大90%削減、製品コストを最大60%削減、開発期間を最大50%短縮した事例も報告されています。これにより、少ない労力で低いサービスコール率を維持しつつ、より多くの新製品開発や新規市場参入が可能となっています。
C) 環境対応・資源循環の取り組み
• 欧州を中心に強化される環境規制に対応するため、廃材の回収・再利用や低炭素素材の開発など、資源循環を意識した技術開発も積極的に進めています。たとえば、既存部品の再利用プロセスを刷新し、再利用にかかる工数や時間を約15%削減。さらに、再生品の販売や、使用済み部品の重量比で9割以上を再利用するなど、サステナブルな製品設計・流通体制を構築しています。
D) 社内プロジェクトの進め方・課題
• モジュラー化推進のためには、暗黙知の形式知化や、部門横断的な知見共有、ガバナンス強化が重要な課題とされています。実際のプロジェクトでは、複数部門が部分的に参加し、製品アーキテクチャの構造化やコストデータの入力・分析、用語定義の統一などを段階的に進めています。今後は、PALMAを活用した利益性分析や、グローバルなサプライチェーン最適化も視野に入れています。
■まとめと今後の展望
データドリブンな逆展開プロセスは、既存製品の構成データを活用し、短時間での効率的かつ確実なモジュラー再構築を可能にします。また、モジュール構築手法に囚われず自社に最適と思われるモジュールを一旦構成してからデータ投入を行いデータの整合性を確かめ、リファインすることも可能になります。 事例からも、部品削減・コスト低減・納期短縮などの効果が確認されています。今後は、PALMAデータべースを起点としたPLM,ERP,CRMとのデータ連携やAI活用、グローバルサプライチェーン最適化など、発展可能性が広がっています。今後の課題としては、組織横断的な知見共有やガバナンス強化、ツール運用の定着などが挙げられかと思います。 まずは、この逆展開手法を気軽にトライしてみてはいかがでしょうか。
【参照】PALMAはModular Management group Stockholm AB社の製品です。
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