製品イノベーションはモジュラーデザインから生まれる
2019/11/15
以前のコラム(ECM/MDを構築することにより企業の収益は大幅に向上する )ではモジュール化が生産性を高めることを説明しました。今回は、製品イノベーションにモジュラーデザインが必要なことを考えてみます。そのためには、製品イノベーションとモジュラーデザインの本質を原理的に把握することが必要です。
1.製品イノベーションはどういうことか
イノベーションには「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」があるとクリステンセンが提唱しました。持続的イノベーションは日本が得意とする改良・改善の積み重ねで、破壊的イノベーションはアイフォンやフェイスブックなどに代表される、従来は無かったものが生まれる事だと言います。この違いはどこにあるのでしょうか。 最近の自動車の技術に大きく3つのイノベーションがあります。電動モータ、ハイブリッドエンジン、高燃費エンジンです。これらの違いを自動車に求められる要求の展開から考えてみます。(図1)他にも、燃焼後CO2が出ない水素自動車も考えられています。このように、求められる要求を解決しようとする方法によって機構や方式の異なるイノベーションは生まれてきます。アイフォンは電話の高機能化ではなく、生活の中でどのようなコミュニケーション手段が求められているかというレベルの問いから生まれたと思います。このようにイノベーションの質は市場の要求をどのレベルで「問う」かによって、「持続的」か「破壊的」かの違いが生まれてくると思います。 いずれにしても、イノベーションを生み出す源泉は、市場の要求(VOC)をどこまで溯って「問い」を設定し、その答えを生み出すかによります。
2.モジュラーデザインとはどういうことか
モジュラーデザインとは、製品をモジュール化し部品種類数を減らしながら、お客様の要求する製品ラインナップをそろえることを可能にする製品開発の考え方だと理解している方は多いと思います。ではそのような相反する要求を実現するためには何が必要なのでしょうか。 モジュラーデザインの根幹は、製品システムに求められる要求に対しどのような機能で実現するのかを、「何故そのようにするのか(WHY)」という根拠によって連携された階層化された情報モデルを明確に定義することにあります。そして、求められる要求が変化したり、根拠となる技術要件が変化したりすることへの新たな連携を作り出すことによってイノベーションが起きるのです。モジュラーデザインはこの階層的な情報モデルを製品モデル(図2)として表現しています。お客様のニーズが全体の設計サイクルの中で、あらゆる想定や意思決定をもとにどうしてその実装に行き着いたかを、すべての階層で根拠づけできるように情報を紐づけすることが、モジュラーデザインの考え方です。そしてその背景には各階層で「何故そうするのか?」が問われており、その根拠を理解したうえで、別の根拠を考えたり、その根拠を満たす別の実装を考えたりして製品を革新することがイノベーションそのものです。従って、このような製品モデルを現行の製品システムで明らかにし、根拠を調べて別の根拠を考えたり、その根拠の代わりを探したりすることで、イノベーションを起こすことができます。モジュラーデザインで設計手順書を作るのは、この根拠を明らかにし、結果として製品を革新する目的や方向を明確にする働きを持つためです。
3.モジュラーデザインを支える考え方や手法
製品モデルを市場要求から製品仕様・製品機能へと展開し、部品仕様・部品機能さらには製造設備との連鎖を根拠づけてつなぐことは一度ですんなりできるものではありません。しかし、これまでのヒューリスティックなエンジニアリング経験を明示的にしたり、論理的な原理を明確にしたりすれば、企業の叡智を情報として活用できる形式にできると思います。 そのためには、だれにでも理解できる形式で表現するシステムズエンジニアリングの記法を用いたり、情報の流れを洗い出す手法としてDSM(Design Structure Matrix)のツールを活用したりすることも有効です。システムズエンジニアリングでのオブジェクトや、DSMでのクラスタリングがモジュラーデザインではモジュールに相当します。これらの手法はどちらも学習と経験を必要とします。ICTに造詣のあるメンバーと共同で取り組むと理解が早いと思います。4.イノベーションが継続的に起こる仕組み
モジュラーデザインでは製品仕様DB(要求)(BOS-R:Bill of Specifications-Required)が必要とする情報を製品仕様DB(設計)(BOS-D:Bill of Specifications-Designed)から引き出し各種のBOMを作り出し先の工程に渡す仕組みを提案しています。BOS-Rから読み取った情報をもとに、設計手順書で必要な性能値を算出し、BOS-Dの各項目を確定していきます。算出された性能値が許容範囲でない場合は、設計手順や技術そのものを新たに考案することでイノベーションを促進します。(図3)
製品モデルを明らかにし、企業内の叡智を結集した設計手順書を作成し、BOS-RとBOS-Dを連携し維持管理する仕組みを構築します。市場の変化に応じてBOS-Rを更新し、BOS-Dの情報を生み出す設計手順書の根拠を最新の技術や研究によって更新していくことで、継続してイノベーションを起こすことにつながります。
詳細は「実践エンジニアリング・チェーン・マネジメント」IoTで設計開発革新 日野三十四著 日刊工業新聞社 を参照してください。
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