マツダCX-60をモジュラーデザインの視点で分解する
2022/08/31
日経Automotive7月号にて「マツダ、エンジン軸足の勝算」という特集がありました。(図1)
概要は、自動車業界が電動化、EV化が進む中で、今後展開される大型SUV向けラージ商品群では直列6気筒エンジンとそれを搭載するプラットフォーム(PF)を新規開発することに対するインタビューとマツダの狙いを解説した記事です。
マツダはこれまでもSKYACTIVエンジンをコアとしたモノづくり革新=モジュラーデザインを実践してきた企業と言えますので、この記事を参考に最新の動向を解説します。
■これまでのマツダの取組
マツダの現在を創り上げたSKYACTIVエンジンの横展開を狙った業務改革プロジェクト「モノ造り革新」は2006年から開始されました。この「モノ造り革新」は、”相反するコスト低減と性能アップを両立させる”ことを目的として、モジュラーデザインを開発から生産までの業務に落とし込んだ業務改革です。「モノ造り革新」は3つの要素から成り立っています。”一括企画”にて今後数年間の商品ラインアップを企画し、”コモンアーキテクチャ構想”にて製品システム構成~製品モジュール化を行い、”フレキシブル生産構想”によって多品種少量生産を実現する工程設計・設備設計を行いました。(図2)これによってSKYACTIVエンジンと鼓動デザインという魅力的な価値を効率的に横展開できる全社改革を行ってきました。
■ラージ商品群に対する取組み
冒頭に紹介した記事を参考にすると「モノ造り革新」は新しい商品に対しても忠実に遂行されていることがわかります。特にモジュラーデザインの視点では『Part3:直6開発「ただでは起きない」』の中から以下2点が参考になります。
1つ目は市場要求への対応です。グローバルに展開する車種として各国地域のニーズや法規制への対応が求められます。欧州では厳しい環境規制、北米では大排気量・大出力のエンジンのニーズに対応する必要があります。一方でマツダとしては「人馬一体」となる走り心地を提供するといった理念にも応えなければなりません。当然これらを満たした中で、最適な製品システムを用意する必要があります。
2つ目は製品システム構成の整備です。上記の市場要求に対応した様々な製品ラインアップを効率的に展開する必要があります。具体的な製品システムの構成要素として、エンジンはガソリン2種とディーゼル1種の計3種と、ハイブリッドはPHEV、簡易HEV、無しの3種、これらの組合せを準備します。記事の中では「同体質(構造や部品の共通化ではなく特性をそろえる)で開発を進めることを重視」と記載がありましたが、MD本の言葉に置き換えると「製品システム構成を予め整備する」ことだと言えます。
その結果として、構造や部品の共通化にもつながり、部品コストや生産性にも貢献できていると想定されます。また、特性を揃えた上で、構造における固定と変動部分を定義することにより、シミュレーションを使いまわすことが可能となり、開発期間短縮につなげています。
結果として、下図(図3)にある通り変速機やレイアウトを共通化しています。その他にも「各部品の共通化することも可能となった」との記載がありました。モジュラーデザインでも提唱しているように、部品の共通化から始めるのではなく、その上位概念(製品システム構成)から整備を始めることの重要性が表れています。MDの手順に照らし合わせると、まずは製品システム構成を定義した上で、レイアウトの標準化の順番となります。その結果として、下図のようにエンジンのサイズ違い(6気筒-4気筒)とモーターのサイズ違いがあっても、変速機の位置は同じにできるレイアウトを生み出せたと考えられます。この結果として、ここに記載あるメインユニットに紐づく構成部品や固定用部品など多くの部品共通化を実現できます。
筆者の見解として、大排気量エンジンとしてV6エンジンを選択することも当然可能だったと思いますが、マツダでは現在直4が主流であることから敢えて直6を選択したと考えます。その理由は、直4エンジンと相似形の直6とすることで、周辺部品から、生産設備に至るまで「同体質」で設計と製造が可能になっていると想定されます。また、直6とすることでBMWに対抗するブランドへの意気込みも感じます。
■今後の想定課題
この記事では触れられていませんでしたが、昨今のニュースである通り、自動車業界にとっても半導体の確保が喫緊の課題になっています。マツダにとっても同様の状況と想定されます。
マツダの中期経営計画の資料を確認すると、CASE技術の進化の中でもConnectedに該当する領域(マツダコネクト2)や統合制御開発、エレキプラットフォーム作りと言ったキーワードが今後の重点施策であると確認できます。従来の自動車でも求められていたパワートレーンに対するモジュール化は進んでいるものの、半導体が必要とされるエレキ領域におけるモジュール化は道半ばであると想定されます。
半導体の視点で見ると、今回の記事で紹介されたラージ商品群は年間30万台程度(30~100個程度/台の半導体)、一方でiPhoneは年間2億台(50個程度/台の半導体)とスマホと比較すると666分の1の半導体個数しかなく、半導体の安定供給に向けて自動車業界での標準化は急務です。今後、エレキ領域(特に半導体)についてもマツダの動向を注視し、ECM/MD研究会としてもエレキ領域の研究を深めたいと思います。
余談ですが、本コラム執筆時点(22年8月)にマツダディーラーを訪問したところ残念ながらCX-60の実車を確認することはできませんでした。9月頃にディーラーへ展示車が納入され、ユーザへの納車は23年3月から4月頃になる見込みとのことでした。半年程度かかる要因はやはり半導体ひっ迫の影響と想定されます。
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