自転車における「設計手順書」簡易事例
2022/10/31
本コラムではECM/MD手法の認識を深めるため、研究会の自主研究として自転車を題材に設計手順書を実作成し、その結果から把握した具体的手順と留意点を紹介します。モジュラーデザイン方法論による設計手順書の作成は、部品種類と設計期間を大幅削減するとともに、設計知識が“見える化”されて技術伝承/技術共有化/技術力向上を狙えます。 以前のコラム(自転車における製品モデル例)では、ECM/MD手法でも中核の考え方となる製品モデルについて紹介しましたが、製品モデルで設計部品構成に展開された後は、ユニットまたは部品単位で設計手順書を作成して管理していきます。おさらいになりますが、図1にMD体系における製品モデルのイメージを示します。
製品モデルとは、「1つの機能製品でその方式、機構、構造を超えてすべての仕様を顧客、製品企画、システム設計、部品設計、生産設計の各視点から最小公倍数的に整理・標準化し、上位仕様から下位仕様へ展開したもの」であり、商品企画や顧客仕様と製品/ユニット/部品仕様との関係性を可視化します。自転車を例に説明すると、まずは商品性要求(荷物がたくさん運べる、加速が良い等)、信頼性要求(壊れない、メンテナンス性が良い等)、価格要求(安い、高級感がある等)といった商品企画や顧客仕様を展開します。次に、構造的要求(ホイールベース、最大積載量等)、目的性能(使用用途、使用路面等)、結果性能(耐重量、転倒防止等)といった社内製品仕様を展開し、関係性をマトリクスで可視化します。最後に自転車を構成する部品構成であるペダルやクランク、フレーム等を設計部品構成で展開し、関係性をマトリクスで可視化します。このように製品モデルでは仕様間の関係性を整理していきます。
図2ではMD体系における設計手順書のイメージを示します。設計手順書はMD体系における
「第2章 設計開発知識ベース」にあたり、設計手順書は製品企画書や顧客企業からの見積依頼書を受けて効率的に設計諸元を決定することを目的として、設計へのインプットから設計からのアウトプットまでの設計の作業を設計の順番に記述し、その方法をデザインルールとして記述した文書になります。設計手順書から部品の仕様を選択する場合には、予めモジュール数を用いて品揃えや部品互換性を最適化させた仕様選定表を適宜呼出して使用します。設計手順書はXXユニットの設計手順書といったように設計部品構成単位で作成していきます。その際に設計手順書に文書番号(AA-DM-XX.XX-01-01)を定義しておき、XX.XXの部分を設計部品構成のコードと合わせておくことで体系的に管理することが出来ます。※ここでのDMはDesign Manualの略。本コラムでは紹介しませんが、設計手順書と一緒に設計解説書(設計手順書の1行の[Why]を記述)も作成し、同様に文書番号(AA-DE-XX.XX-01-01)も設計部品構成単位で管理することを推奨しています。
※ここでのDEはDesign Explanationの略。設計解説書の詳細は
(モジュラーデザインにおける設計解説書について)を参考にしてください。
図3、図4は自転車の主な設計諸元と設計手順書例を示します。設計手順書例では、自転車のフレームを決定する上で重要な諸元の一つであるトップチューブ長の選定から設計を開始します。トップチューブ長は、自転車の背中に該当する長さであり、ヘッドチューブの前側付け根から地面と水平に線を引いた時、シートチューブと交差する点までの長さがトップチューブ長になります。トップチューブ長は自転車の用途や規格をデザインルールとして、仕様選定表から選択することを想定しています。
次に自転車の適正サイズを選ぶ上で重要な値としてシートチューブ長があります。シートチューブ長は、ボトムブラケットの中心(Center)からトップチューブとの接合点の中心(Center)までの長さになります。シートチューブ長は靴を履いた状態の股下長さから-250mmの値が適切であることをデザインルールとして示しています。
更には自転車の乗り心地を決定するヘッド角(ヘッドチューブと地面との角度)やシート角(シートチューブと地面との角度)も用途や規格に合わせて選定表から選択することをデザインルールに示しています。
これらは自転車を設計する上でのほんの一部の設計諸元ですが、設計手順書では論理的に設計するためのデザインルールや仕様選定表(予めモジュール数で部品少数化をしておく)を記載していきます。諸元の中には、CADなどの形状諸元から求める場合や、CAEの演算結果から導き出される諸元もありますが、それらも諸元を導き出すためのデザインルールとして設計手順書に記載することを推奨しています。
ECM本で定義しているモジュラーデザインとは、製品の多様化と部品種類の少数化を両立して売り上げ増大と原価低減を同時に実現することを目的として、製品の諸元にモジュール数を適用した仕様モジュールテーブル(仕様選定表)を組み込んだ設計手順書と定義しています。設計手順書はあくまでも「初めに何をして」「次に何をして」・・・というように設計の作業の順番を記述し、設計の作業を自動化することを目的としています。その設計の中で予めモジュール数を用いて部品少数化された仕様モジュールテーブル(仕様選定表)を引用することで、品質/コスト/納期および共通化に優れた4拍子設計が可能になります。設計手順書の詳しい説明は、以下の書籍(MD教本)にて詳しく解説しているので、是非ご確認ください。
設計手順書の詳細解説掲載ページ
- ・実践モジュラーデザイン 日経BP社(通称:青本)P119~133
- ・実践エンジニアリングチェーンマネジメント 日刊工業新聞社(通称:ECM本)P77~84
最後に、設計手順書は設計者の頭の中を書き出したものなので、設計手順書止まりでは設計者は日常的に使わずそのうち陳腐化して使い物にならなくなります。設計手順書を作成したら、それをもとに必ず自動設計システムまで作り上げる必要があります。設計者は自動設計システムが陳腐化したら困るので、放っておいてもメンテナンスするようになります。
ECM本ではExcelによる設計自動化手順書やそこで使われる設計諸元を管理する製品仕様データベース(BOS)についても記載していますので、ぜひ参考にしてください。
当研究会では、引き続きモジュラーデザインの手法をより分かり易く普及させるためのコラム配信やセミナー開催していきます。今後ともよろしくお願いいたします。
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