顧客を仕様誘導するためのMD式見積設計
2023/5/30
製品や部品をモジュール化したが、いざ顧客要求に合わせて設計すると、モジュール化した製品や部品が流用できずに新たな部品を産み出してしまうという課題があるのではないでしょうか。その処方箋のひとつとして、モジュラーデザインのコンセプトを取り入れた見積依頼書の作り方について本コラムで解説させていただきます。
1.モジュラーデザイン導入後の課題
モジュラーデザイン(以下、MDという)とは、売り上げ増大と原価低減を同時に実現することを目的として、製品を設計する前に限られた製造設備で造られる互換性が高いモジュール部品群を設計しておき、新モデルはモジュール部品群から顧客要求に合う部品を選択して設計する方法になります。図1にモジュラーデザインと従来の設計の考え方を示します。
日本の製造業の多くの実態は、図1の下図に示すように多様な顧客要求に応じて部品の種類が無限に産まれてしまい、結果として固定費が増大し、収益の悪化をまねくことで、最悪の場合は経営が破たんすることが懸念されます。部品の種類数は、設計費、試作費、調達費、製造設備費、補修部品管理費などの固定費の要因の半分を占めるからです。
では、なぜ部品の種類が無限に産まれてしまうのでしょうか。一つは製品の複雑化や多様化が進み、従来の設計では対応できない新たな製品や部品を設計する必要があるからだと考えます。もう一つは、顧客の要求に対して交渉や調整を行う営業や営業技術が自社の製品や部品の仕様を理解せず、顧客の要求どおりの仕様(スペック)を受けてしまうことが挙げられます。製品や部品をモジュラー化した後に、部品の増大を防ぐ有効な手段として、見積設計の流れを見直して見積仕様データを誘導する仕組みが有効です。
2.見積設計と見積仕様書で部品の増加を防ぐ
図2に個別受注型(インデント型)の一般的な見積設計のフローチャートを示します。
一般的な流れとして、顧客から見積依頼(RFQ)を受けて営業部門が内容確認や仕様調整を行い、見積依頼書を作成して社内の案件登録を行い、見積設計指示書を設計部門に依頼します。設計部門では既存製品の有無や流用設計可否を検討しながら、仕様の設計や原価/納期を見積もりし、営業部門と一緒に見積仕様書を発行して顧客に確認します。顧客との調整は複数回行われ、最終的に顧客から発注されると、営業部門が受注仕様書と詳細設計指示書を作成して設計部門に依頼し、詳細設計に繋がります。これらの見積依頼を受けてから見積仕様書を発行するまでに、如何に新規の部品を産み出さないための仕様誘導を行うかが鍵と考えます。また顧客の要求は時間を追うごとに複雑化していくことが一般的であり、引合いの初期段階から顧客の要求に応えつつ、製品仕様を誘導することが重要となります。図3に見積依頼書データ入力画面を示します。
図3に示す通り、見積依頼(RFQ)を受けて、営業担当が見積依頼案件のデータを画面や帳票に入力します。この際に出来るだけ自由記述を無くし、RFQを最小公倍数的に包含してモジュール化された自社の製品や部品を選択式で入力するように誘導することが望ましいです。例えば自社製品のサイズが200㎜、300㎜、450㎜のラインナップだった場合にはその3種類の選択肢としておき、顧客との仕様調整時には3種類から選ぶように顧客を誘導します。どうしても3種類以外のサイズを選ぶ場合は費用が上がることを引合いの初期段階から顧客と調整します。このように自社でモジュール化された製品や部品のラインナップを見積依頼書データ入力画面で可視化しておくことで、営業部門が顧客に対し仕様誘導しやすくなります。結果として、新たな部品の設計や製造の抑制に繋がります。このような仕様誘導に加えて、競合するような仕様に対して最適な部品の組み合わせを判断してくれるのがコンフィグレータであり、顧客から要求された仕様をもとに、製品の構成まで作成することに繋がります。
3. モジュラーデザインを定着するには
過去の多種多様なRFQを分析して最小公倍数的に包含した見積依頼書を作成しておき、営業部門の交渉武器として渡しておくことで、引合いの初期段階から顧客要求に対して仕様誘導を行うことが可能となります。その結果、新規部品を抑制して固定費を減らすことができます。自社の仕様が見積依頼書に厳密に定義されているか、あいまいな表現や自由記述が多くないかを是非確認してみてください。
見積設計の手順について詳しい説明は、以下の書籍(MD教本)にて詳しく解説しておりますので、是非ご確認ください。
- 実践エンジニアリングチェーンマネジメント 日刊工業新聞社(通称:ECM本)P99~108
当研究会では、引き続きモジュラーデザインの手法や考え方をより分かり易く普及させるためのコラム配信やセミナー開催を行ってまいります。
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