モジュラーデザインの構造 -目的と手法の役割- その2

2023/4/30

 モジュラーデザインの目的と、それを実現する手法の役割をひもとくことで、モジュラーデザインへの取組みが容易になることを願い、モジュラーデザインの手法の前提となる製品モデルを中心に説明します。前回のコラム「モジュラーデザインの構造 -目的と手法の役割」では、企業経営の目的である収益力の向上のために、製品を多様化し市場ニーズに応えながら、部品や製造設備を少数化・共通化するモジュラーデザインの手法をどのように使うかを概観しました。「売上増」という目的に必要な手段として、「市場が求める多様な製品を、品質を満たしタイムリーに低価格で提供する」ことが必要で、そのための戦略として「製品群を一括して企画・設計し製品をモジュラー型にすることによって、市場要求にモジュールの組み合わせで応えられる製品のラインナップを整備する」ことをめざします。実現する手法として、製品モデルの「市場要求」、「製品仕様構成」、「製品システム構成」を核として

  • 市場要求を体系的に整備する
  • 市場要求を実現する製品仕様構成を体系化する
  • 市場要求→製品仕様構成の展開をその根拠を含めて形式知化する
  • 製品仕様を実現する製品システムの方式、機構、構造を品質、開発期間、コストを含めて検証し
    製品仕様構成→製品システム構成の展開をその根拠を含めて形式知化する
といった活動を提示しました。


 モジュラーデザインは戦略として「製品群を一括して企画・設計し、モジュラー型の製品ラインナップを整備する。」ことにより収益力を向上することです。しかし、企業の現状は、初期製品にたいして、お客様の要求にそって設計変更を重ねることで、部品数の増加や製造設備の増強によりコスト増を招き、収益の低下や製品イノベーションの時間的な余裕が無いままに、競争力の低下に直面していることが多いのではないかと思います。 このような現状から脱却するために、製品革新を促進し製品アーキテクチャーをモジュラー型にするためには手法をどのように活用するかを考えてみたいと思います。
 図1にモジュラーデザインの手法やツールと製品モデルの関連を示します。


図1:モジュラーデザインの手法やツールと製品モデル|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図1:モジュラーデザインの手法やツールと製品モデル

これらの手法やツールを用いて製品アーキテクチャーをモジュール型に転換する手順を考えてみます。

1.製品アーキテクチャーをモジュラー型へ転換する

製品アーキテクチャーとは

  1.  1:機能要素の配置
  2.  2:機能要素と構造要素の写像関係
  3.  3:構造要素間のインターフェースの仕様
だと言われております。従来の設計では、お客様から要求される仕様(機能+性能)に対し既存の構造要素に対する設計変更で対処することで、構造要素の亜種が増加し、製造設備も増え、製品ラインナップが戦略も統一感も無いものになっているのではないでしょうか。 これに対し、製品の機能要素を見直し、構造要素との写像関係を見直すことで、モジュラー型の製品システム構成へと転換するには手法やツールをどのように活用するかを考えてみます。(図2)

図2:製品アーキテクチャーをモジュラー型に転換する|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図2:製品アーキテクチャーをモジュラー型に転換する

製品アーキテクチャーをモジュラー型にするには、機能とそれを実現する方式・機構・構造を見なおすことからはじめなければなりません。

2.現状の製品構成要素の機能を再確認する

 このパラメータ設計の活用タイミングは大きく2通りあります。1つ目は機能設計・基本設計レベル(1Dレベル)で、部品やユニット含めた構造、部品に落とし込む前のタイミング。2つ目は詳細設計レベル(3Dレベル)で、詳細設計部品やユニットなどに落とし込んだタイミングです。実施するタイミングにより各パラメータの粒度、数が異なります。

図3:機能展開と機能部品|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図3:機能展開と機能部品


 しかし、インテグラル型の製品や要求に応じて拡大してきた製品群では、機能要素と構造要素との関係が見えにくくなっています。そこで、現状の製品の機能要素と構造要素との関係を再確認する必要があります。これを確認するには、製品モデルの設計部品構成を活用します。(図4)設計部品構成の「定義欄」にはユニットや部品の機能が書かれています。これをもとに、構造要素の体系と機能要素の関係を見直すことで、製品の現状のアーキテクチャーを確認することができます。しかし、このような設計部品構成を準備している企業は少ないと思われますので、末端部品の機能から定義し、順次上位の構造要素を定義していくことをお勧めします。 また、これらの部品の設計手順をひもとくことによって、構造要素間のインターフェースが明らかになると思います。

図4:設計部品構成|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図4:設計部品構成


 この作業によって確認された製品のアーキテクチャーを見直し、図2で示すようにインテグラルな構造をモジュラー型に変革するには、図1の製品機能構成と製品システム構成を見直すことが必要です。その為には、まず機能構造そのものを見直します。


3.機能構造から見直しモジュラー型アーキテクチャーを構築する

 設計部品構造の定義欄を整理すると、図3の機能展開が導かれます。この展開をもとに、機能構造を再確認します。さらに展開された特定の機能レベルで、機能間のエネルギー・物質・信号の変換を記述します。これを機能構造図といいます。(図5)

図5:機能構造図|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図5:機能構造図

 これに対して、展開された機能を実現する機能部品(構造要素)間のエネルギー・物質・信号の流れを記述しているのが機能ブロック図です。(図6)

図6:機能ブロック図|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図6:機能ブロック図

 機能要素間の表現「~を~する」を見直し、エネルギー・物質・信号の流れが簡素になるように機能を見直します。見直した機能を実現する構造要素の方式・機構・構造を選択または革新することにより製品アーキテクチャーをモジュラー型へと変換していきます。この手法が図1に示す「設計・製造連携VE」です。機能要素と構造要素の対比をより1対1に近くすることができます。結果としてインターフェースも簡素にすることが可能になります。  以上の検討を通じて製品の機能構造を見直し、機能のはたらきを分類することを通して、機能と構造要素の対比を整理していくことが、製品アーキテクチャーをモジュラー型に変えていく活動になります。モジュラー型システムのアーキテクチャーは機能と構造の役割が明確に対比された構造になります。(図7)この活動の整合性を保つために製品モデルを精度よく維持管理していくことが必要です。

図7:モジュラー型の機能要素と構造要素の整備|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図7:モジュラー型の機能要素と構造要素の整備


 今回は、製品を革新して製品群を一括企画・一括設計する前提として、製品の設計部品構成から機能構造へと溯り、機能構造と機能ブロック図の対比を見直すことにより、製品アーキテクチャーをモジュラー型に近づけることを概観してみました。製品群を一括設計する製品系列統合化設計では、設計・製造・据付・運用・廃棄といったライフサイクル全体にわたり、性能やコストの最適化と環境問題への考慮が必要になります。モジュラーデザインはその一翼を担う考え方で、多くのヒントを与えてくれます。研究会では、様々な事例を通して製品戦略の課題に取り組み、方法論を深めて普及していきたいと考えております。



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参考文献



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