モジュラー化による品質コストの改善についての考察(1)
2022/06/20
品質コストの把握と軽減化については、長らく製造業においては課題の一つとしてとらえられていると思います。製品のモジュラー化によって多くのコスト課題が解決されることがわかっていますが、その中でも品質コストに着目して、品質コストの分類分析からモジュラー化による品質コスト削減を導く方策について考えていきたいと思います。
1.モジュラー化による部品種類数削減による効果
モジュラー化による効果を算出するためにKPI(Key Performance Indicator)を事前に設定し、モジュラー化の進捗について評価することはプロジェクトを推進する上で非常に重要な作業です。
2.品質にかかわるコストの実態例
まず、品質にかかわるコストの実態例を見ていきましょう。 設計から出荷までのプロセスで下図のようなプロセスと各ステージにおける典型的な品質コストの例についてまとめてみました。
ここでは設計品質などについては大きく触れていません。企業において「品質問題」と称されて取りざたされる事象の多くは製造や検査工程で起こっていると思われています。これは工程プロセスの後半に行けば行くほど問題事象が大型化(コストがかかる)ことによります。
設計部門でも品質問題は起こっています。これは設計レビューや時には発注者との打ち合わせによって仕様の見解相違が顕在化して設計変更となることがあります。これは設計仕様品質由来のコスト増です。しかしながら、まだ部品手配前であり、金額的なコストが顕在化しないため品質コストととらえられていないかもしれません。
製造業のための製品・サービス情報サイト「TechFactory」で実施した読者/会員アンケート「設計開発者のための品質管理」(調査期間:2017年4月24日~5月8日)の結果から設計現場の80%以上が品質問題に直面しているとの報告があります。(*1)
80%以上の回答者が業務で「設計・製造品質の問題」に直面したことがあると回答。その原因としては「設計仕様の問題」(71.8%)が多く挙げられた他、「設計面での属人的なミス」(48.6%)、「短納期での開発」(46.2%)、「組織的なコミュニケーションの問題」(41.7%)が目立った。複雑な製品開発を短期間で実現しなくてはならない設計・開発現場の苦労が見てとれる結果となった。 設計・製造品質に関する課題としては「設計技術者のスキルレベルの低下/品質技術の伝承」(63.6%)が最多。次いで「組織的なコミュニケーションの問題」(51.5%)、「短納期での設計・開発(48.7%)という結果となった。具体的な品質確保の取り組みとしては、「標準化」「効率化」「見える化」がキーワードとして浮き彫りとなった。
一方、調達手配を担当する部門でも品質コストは発生していると思われます。調達では図面を受け取るとサプライヤに対して部品や組立の調達を行いますが、その際に原価管理を行っている場合には過剰な品質に対してコスト低減の要求を行い図面を差し戻すことがあります。これも品質管理に関するコストかもしれません。
生産部門では多くの品質管理に関するコストが発生しています。まず、図面で指示された品質を維持するためにどのような加工組み立てを行うかについて検討を行います。日々の活動の中での品質管理活動とも言えますが、製品依存の品質課題も多くあります。最終的には検査部門において仕様書や、企業の管理目標、業界団体の品質管理指標を達成しているかどうかの品質検査が行われます。最悪のケースでは検査部門での差し戻しにより、加工、組み立てが再度行われます。これも品質課題に由来するコストになっていきます。
3. 品質コストの分類と計算
ゼネラル・エレクトリック社のエンジニアであり,品質管理マネージャーだった A. V. Feigenbaumは品質コストの分類について、予防コスト・評価コスト・失敗コストに分類する,予防・評価・失敗モデル(Prevention-Appraisal-Failure Model;PAF Model,以下 PAF アプローチと略称)を発表しました。(*2) このPAF法による分類方法は次の表のとおりです。
定義および事例 | |
---|---|
予防コスト prevention cost |
有効な品質保証・管理システムを設計、実行、維持していくためのコスト(品質計画、工程管理、品質訓練など) |
評価コスト appraisal cost |
原材料および製品が適合品質標準に合致することを確保するためのコスト(購入材料の受入検査、点検作業、品質監査、技術評価など) |
内部失敗コスト internal failure cost |
品質標準に合わない原材料・製品から生じるロスの製造原価。ただし、製品出荷前に発見されたものに限られる。(スクラップ、再作業など) |
外部失敗コスト external failure cost |
低品質の製品を顧客に出荷したために生じるコスト(アフターサービス、苦情処理、製品リコール、製造物責任など) |
この表の分類を管理会計における原価分類に置き換えれば、その企業の品質にかかわるコスト分類と分析が可能となるはずです。 ですので、再度業務プロセスの中で起こっている事象を上記コストカテゴリーに分類してみますと以下のようになります。
- 設計レビューによる手戻り 予防コスト、評価コスト
- 営業やお客様との打合せによる設計変更 評価コスト
- 生産技術部門の検討による手戻り 内部失敗コスト
- 品質管理部門における不具合手戻り 内部失敗コスト
- 調達部門や営業部門での品質不具合対応 内部失敗コスト
- 納品後の不具合解決(瑕疵、クレーム) 外部失敗コスト
というふうに品質による問題解決のための費用費目は多岐にわたることがわかると思います。また営業部門や調達、サービス部門での品質問題への対応は表のように製品原価としてトレースできなことも多く、販管費にカテゴライズされる費目で対応されているのではないかと思います。
会田富士郎氏は論文において、上記PAF法を使った品質コストの分類について、その例を示しています。二つのコスト算出例を紹介します。
表例は年間にかかったコストを表しているので、これを製品製造数に依存するもの、モジュール単位数に依存するもの、部品数に依存するものに仕分けを行いそれぞれの個数で割れば部品一個を新たに起こした場合のコストが試算できる。 上表で評価コストと内部失敗コストは主に製品と部品に関わる品質管理コストといえる。 外部失敗コストは製品に関わるコストとなる。この例の事業体では品質保証費用の33%が部品に依存していることがわかります。
- この事例はコピー製造販売企業の品質に関わるコスト試算をしている事例となります。
- 単価15,000$の製品を年間20,000台販売している。(約300億円の売上)
- この表の試算方法では品質原価を4千万$(40億円)(売上比13.3%)と算出している。
- これを前述の例の品質コストの約33%が新規部品に依存しているとすると
13万2千$(13億円)がこれに相当する金額となる。
実際にこのような分類と分析を行って品質コストを管理している企業は少ないかもしれません。しかしながら、品質課題を一掃したいと考えている企業では上記のような分類と分析から「当社の品質問題にかかわるコストは1%である」という製品量産型企業や、「当社の受注プロジェクトにおける手戻り費用は8%になっている」という受注型企業など様々です。
上場企業や大手企業で行われている管理会計では、量産型の製品販売に対しては、過去の実績から一定の「製品保証引当」や、プロジェクト型の企業では納品後の品質問題を把握している場合には「工事損失引当」という費目であらかじめ品質課題を会計処理することが義務づけられています。
4.モジュラー化で削減されると思われる品質コスト
さて、品質コストの分類、分析、についてみてきたうえで、モジュラー研究のテーマとして、「モジュラー化でどれくらい品質コストを抑えることができるのか」というテーマに絞っていきたいと思います。 今回はモジュラー化でどれだけ部品種類数が削減されるかというテーマについては触れずに、モジュラー化で部品種類数がXX%減ったら、品質コストがどれくらい下がるかに絞っていきたいと思います。 品質を良くする、ためには日々の業務の中で様々なステージで多くの方々がこれにかかわっています。企業の日々の業務のほとんどは品質を維持する、よくするための活動といっても過言ではないかもしれません。 筆者の経験で製造業の各部門において行われている通常チェック業務についてまとめてみました。主な業務、またその業務が部品のために実施されているのか、製品レベルで行われているかの分類を行っています。
この表の中で赤枠で囲まれた部分が特に品質課題への取組業務といえるかと思います。(この表では前述のPAF法で言われるところの「失敗コスト」や「予防コスト」についての業務は述べられていません。)
この表からわかることは、多くの評価業務は部品レベル(モジュールレベル)にあるということです。
会田富士郎氏の論文で示された、部品に対する品質保証コストをPAF法を使って分析された二つの事例を再度参照します。
- (ア) 部品に対する品質保証コストから品質保証費用の33%が部品に依存している
- (イ) コピー製造販売企業の品質に関わるコスト試算をしている事例において; 単価15,000$の製品を年間20,000台販売している。(3000億円) この表の試算方法では品質原価を4千万$(40億円)(売上比13.3%)と算出している。 これをの(ア)例の品質コストの約33%が新規部品に依存しているとすると、13万2千$(13億円)がこれに相当する金額となる。
従って、モジュラー化を進めた結果、新規部品種類数を年間で30%削減できたと仮定すると、企業の品質コストの33%の30%、即ち約10%を削減することができるといえます。このコピー機の企業では約1.3億円の品質コストが削減されることになります。
結論として、部品に対する品質保証コスト分析方法に示した分類のように、管理会計をPAF法を用いて品質にかけられたコストを分類し、この費用のうち、部品レベル(モジュール)に対して何パーセントが使われているかの値を把握し、次に活動原価から品質原価を導く方法を用いて、企業の中で、いくらが品質維持活動に使われているかを把握できれば、モジュラー化による部品種類削減で品質コストがいくら削減されるかが把握できるはずです。
次回のコラムでは、実際にどのような分析で品質コストを導き出すかの方法論と事例について紹介したいと思います。
以前に書かれたコラムに「MD活動効果のキャッシュフロー化と経営指標への貢献」というものがあります。ここでは、MD活動によって品質も含めた多岐にわたるコストについての効果が示されています。併せてご参照頂ければと思います。
以上
参考文献
- 1.TechFactory(ITmedia Inc)2017年06月30日掲載ウェブサイト
- 2.イギリス企業における品質原価計算の展開 小杉雅俊
- 3.品質原価計算に関する一考察 会田富士郎(つくば国際大学2015年)
■モジュラーデザイン研究会メールマガジン
モジュラーデザイン研究会メールマガジンではコラム・セミナー情報などをご紹介して参ります。
また、ご登録いただくと講義・講演資料・お役立ち資料のダウンロードをご利用いただけます。