原価のしくみを理解しモジュラーデザインに必要なKPIを考える ①
― 仕事の目的を数字にする2つのKPIとは ―
2024/3/31
モジュラーデザインを推進するテーマには、設計・製造リードタイムの削減、間接業務に係る間接労務費・固定経費や、工場では設備の減価償却費・金型治工具費の抑制などがあげられます。しかしこれらの中には、製造原価の固定費に関わる部分が多いため、利益を計算するにあたり見えにくい欠点があります。そこで各テーマに対する成果を代替の数値で見える化し、会社の最終目的である利益アップへ繋げる必要があります。
その解決策として、多くの会社で活用されているKPI:Key Performance Indicators(業績評価指数)があります。今回のコラムでは、モジュラーデザインの成果を利益に結びつけるため、まずは財務・管理会計における原価のしくみを理解し、KPIの適用方法について2回に分けて考えてみたいと思います。
1.各部門の仕事の目的は何か
生産管理や受注処理業務のような事務処理業務の仕事の目的は「製品やサービスを納期どおりに納めること」です。よく「計画や受注処理を効率よく立てること」などの答えが返ってくることがありますが、効率よく立てることはインプットです。どの仕事にもQ:品質、C:コスト、D:納期がありますが、会社の目的、部の目的、課の目的に合わせて自らの仕事を答えるようにしたいものです。「納期どおりに収めること」は納期力、「クレームをなくすこと」は品質力であり、わかりやすいアウトプットです。 技術・開発部門の目的は、「特許を取ること」「新製品を開発すること」などはインプットです。これらのアウトプットは「特許を利用すること」「売れる製品を開発すること」が目的で、特許を取得してもそれを利用した製品が開発されなければ意味がありません。製品を開発しても、顧客が満足する売れる製品でなければ意味がないからです。 情報システムの目的は「依頼のあったシステムを納期どおりに作ること」と考えがちですが、情報システムはユーザーから依頼されたシステムを設計、作成しても、使われないシステムでは意味がありません。システムをユーザーに使ってもらってユーザーの生産性に貢献することが目的です。このように所属する部門の目的を明確にすることが必要です。
2.仕事の目的を数字にする2つのKPI
戦略目標を実現するための具体的な業務プロセスをモニタリングする指標を業績評価指標(performance indicators)と言い、その中で特に重要な指標がKPI(Key Performance Indicators)と言います。 KPIを設定するときは、アウトプットKPIとインプットKPIを明確に分けることが重要です。アウトプットKPIは、財務的成果をどのように達成すべきかを知る尺度で、パフォーマンスドライバーと呼びます。そしてこれは、利益に繋がるものでなければなりません。しかし、これを実現するにはインプットとしてのコストがかかります。効果的なビジネスプロセスの構築には、目的とするアウトプットをより安いコストで生み出すことです。そこで、効率を表す尺度としてのインプットKPIが原価の作用因を、コストドライバーと呼びます。
つまり、それぞれのビジネスプロセスの作業量を増減させる要因となるものがコストドライバーなのです。モジュラーデザインの成果では、このコストドライバーとの関係を明確にすることが重要です。
こうして、曖昧であった業務の目的が明確になり、何をやりたいのかが見えるようになり、仕事の出来不出来も見えるようになります。しかし、数字を取ることが目的ではないので、アクションに繋がる数字を取ることに心がけたいものです。
3.財務会計・管理会計の違いと固定費に係るコストドライバーを考える
ここで、間接の仕事とコストドライバーの関係を、利益向上に必要な製造原価との係りから考えてみたいと思います。利益向上の指標には、代表的な総資本利益率があり、財務会計上のデータから計算されます。しかし、財務会計では、コストドライバーへ紐づけることができないため、管理会計上のデータへ落とし込む必要があります。そこで、財務会計・管理会計の違いを理解し、固定費に係るコストドライバーとの関係を考えてみたいと思います。
財務会計は過去の一定期間(1年間)計算した利益を適正に配分することを目的とした会計で、何にお金が使われたかを材料費、労務費、経費の形態別に分類します。
しかし、管理会計は管理目的(事業計画、売値決定、原価低減・・)なので、材料費(直接費)・加工費(間接費)に分類すると製品別原価が見積もりやすく、変動費・固定費に分類することにより意思決定がしやすくなります。
財務会計上の分類を管理会計上の分類に置き直すには、図3 に示すように単価と消費量に分けます。先にモジュラーデザインの成果に欠かせない原単位(コストドライバー)当たりの単価を作り、材料費は個、㎏重量など、加工費は工数、Hr時間などが原単位になります。そして、個々の製品に重量や時間の消費量を求めると、単価×消費量で材料費、変動加工費、固定加工費が計算できます。
図表3 の最終行では材料費、変動加工費、固定加工費の区分で製品1個の原価が計算されます。全製品にこのデータが準備できると管理がしやすくなります。一般的に、材料費を中心とした変動費はわかりやすいのですが、間接労務費、間接製造経費が見えにくいため、モジュラーデザインの固定費の効果をKPIで見える化することが必要になります。そのためには、特に固定費の原単位であるコストドライバーの明確化とモジュラーデザインの成果の関係を追求することが重要です。
以上、今回のコラムでは、多くの会社で活用されている間接部門の生産性指標であるKPIと財務会計と管理会計における原価のしくみについて考えてみました。モジュラーデザインは経営指標を向上させる手段で、開発・設計のみならず生産技術・製造・購買・生産管理・サービス部門など、さまざまな部門への波及効果があります。
モジュラーデザインの効果を確実にするためには、アウトプットKPIとインプットKPIを明確に分けることで重要です。次回のコラムでは、波及効果の大きいモジュラーデザインの効果について、各部門の具体的なアウトプットKPIとインプットKPIを考えてみたいと思います。
参考文献
■モジュラーデザイン研究会メールマガジン
モジュラーデザイン研究会メールマガジンではコラム・セミナー情報などをご紹介して参ります。
また、ご登録いただくと講義・講演資料・お役立ち資料のダウンロードをご利用いただけます。