原価のしくみを理解しモジュラーデザインに必要なKPIを考える ②
2024/9/30
-仕事の目的を数字にする2つのKPIとは-
第1回目のコラムでは、モジュラーデザインの成果を利益に結びつけるため、まずは財務・管理会計における原価のしくみを理解し、KPIの適用方法について
- 1.各部門の仕事の目的は何か
- 2.仕事の目的を数字にする2つのKPI
- 3.財務会計・管理会計の違いと固定費に係るコストドライバーを考える
を解説しました。
今回は、仕事の目的を数字にする2つのKPIであるアウトプットKPIのパフォーマンスドライバーと、インプットKPIである原価の作用因のコストドライバーについて、そして間接部門で生産性を上げて、会社の利益に結びつけていく方法について考えてみたいと思います。
1.パフォーマンスドライバーとコストドライバー
各部門の業務の目的は、設計段階では極力バラツキを抑え、信頼性・適正品質確保を実現すること、製造段階では工程能力の確保と品質の作りこみを行って不良の出ない製造工程を実現することであり、目的は対製品品質の顧客満足向上です。これらを定量的なパフォーマンスドライバーに展開すると、製品障害率、工程能力率、製造不良率、資材不良率の低減になり、実施すべき責任部門は、設計、生産技術、製造、資材部門になります。今回は、各部門がこれらの目的を果たすための指標であるパフォーマンスドライバーとコストドライバーを考えてみましょう。
■ 間接コストを決めるコストドライバーを見つける
パフォーマンスドライバーやコストドライバーを発見して、いくらよい評価指標を作っても、指標を動かすのは各部門のアクションです。評価数値は必ず人(部門)別に集計されなければ評価に結びつきません。 図1は、部門別にパフォーマンスドライバーとコストドライバーを対応させたものです。原価の作用因であるコストドライバーの右には、インプットするお金を記載しました。お金には費用と資産の両方があり、最終の総資本利益率向上に対し、費用は売上高利益率の向上に、資産は資本回転率の向上に繋がります。たとえば開発技術部の製品設計では、インプットである開発設計コスト、資産では無形固定資産(特許権、商標権、著作権など)に対し、パフォーマンスドライバーは出図納期達成率・開発LT、コストドライバーは出図枚数になります。
“費用効率=コスト効率”は、コストドライバーを安いコストで達成することで向上することができます。たとえば、納期を安いコストで守る、クレームを安いコストで解決する、特許を安いコストで取得する、新製品や情報システムを安いコストで開発する、などです。すなわち、チャージレート(アクティビティ(行動)コスト÷コストドライバー数)を低減する活動です。これが、工場の管理指標である不良率や稼働率といった指標に展開されると、現場管理と結びつくシステムになっていきます。 一方、資産効率は回転率(売上高÷アクティビティ別使用資産)によって測定することができます。資産効率は費用効率に比べて長期的アクション項目が多く、次からは費用効率を中心に指標を展開しています。
2.間接部門で生産性を上げていくには業務効率と作業効率がある
次に、間接部門が生産性を上げていくしくみについて考えてみましょう。図2に示すように、会社の業績指標である総資本利益率の向上は利益率と回転率の向上のいずれかです。これを、間接業務の活動が前者の利益率向上にどのように貢献するかに絞ると、業務効率と作業効率の2つがあります。 業務効率は仕事のしくみの良し悪しを示し、業務目的であるアウトプットを、いかによいしくみで生み出したかを測定します。作業効率はその仕事を実施するときの効率(実施効率)であり、ロスなく作業をこなしたかを測定します。 両者を金額で測定すると、業務効率は経常利益÷標準原価(日常の管理ロスを除いた標準業務の原価)、作業効率は標準原価÷実際原価(実際にかかった原価)になります。■ 間接生産性を物量値で測定する
間接生産性をわかりやすくするには、金額生産性に匹敵する物量生産性指標を作って、身近にあるデータから、自らの生産性を計算することです。図3の物量による間接生産性は、金額生産性の経常利益、実際原価、標準原価と同じ意味を持つ物量値(時間・回数・重量・・)に置き換えたものです。経常利益にはパフォーマンスドライバー、実際原価には就業工数、標準原価にはコストドライバー数を持ってきます。すると、業務効率はパフォーマンスドライバー÷コストドライバー数で、作業効率はコストドライバー数÷就業工数になり、金額にほぼリンクした生産性を測定することができます。業務効率は、少ないコストドライバー数で業務をこなすしくみの改善、作業効率は1単位のコストドライバーにかける工数の低減活動です。 図3の物量生産性を対比した購買業務の例では、アウトプットが購入納期達成率、コストドライバーが発注回数で、前月の総合効率は0.40(80%÷200時間)になります。業務効率は0.80(80%÷100回)、作業効率は0.50(100回÷200時間)です。同じく、今月の総合効率は0.50(90%÷180時間)、業務効率は0.82(90%÷110回)、作業効率は0.61(110回÷180時間)になります。 前月の値を100%に置いて、今月の生産性向上率を計算すると、総合効率125%(0.50÷0.40)、業務効率103%(0.82÷0.80)、作業効率122%(0.61÷0.50)になり、今月の生産性は前月に比較して25%向上し、その要因として業務効率が3%、作業効率が22%向上したことがわかります。少し話は詳細になってしまいましたが、間接部門の評価は製造部門のようにアウトプットされた製品やユニット・部品などの時間当たり出来高で生産性を測定することはできません。したがって、間接部門の生産性を測るには、間接作業に合ったパフォーマンスドライバーとコストドライバーを見つけることが重要です。 最後に、モジュラーデザインの大きなひとつの目的である、“部品種類削減”における具体的なコストドライバー増減における効果について考えてみましょう。
3.部品種類削減による各部門のコストドライバー増減による効果
モジュール部品の最適化によりモジュール化された部品種類削減効果は、製造原価の材料費・労務費・製造経費の原価低減と設備投資・在庫投資(在庫低減)の抑制につながります。図4は各部署の部品種類削減による各部署の効果項目の増減とコストドライバーの関係を表しています。コストドライバーとは原価の作用因で、それぞれの仕事の作業量を増減させる要因となるものです。
■ 設計・生産技術部門の効果
設計部門では部品種類削減により出図図面枚数が減り、設計工数・改善対応工数低減により設計リードタイムが短縮し、在庫投資も抑制されます。これらにより新製品開発工数が生まれ、新製品開発件数は増加し売上増へ貢献します。 生産技術(生技)部門では部品種類削減により工程設計数が減り、生産準備工数・改善対応工数が低減し、ムダな設備・金型・治工具への投資も抑制されます。これらにより新工法設計工数が生まれ、生産効率を考慮した新ラインや新設備の開発件数が増加し売上増へ貢献します。■ 購買・生産管理・製造・メンテナンス部門の効果
購買部門では部品種類削減により発注ロットが大きくなり部材の発注回数が減り、発注業務工数と調達物流コストが低減します。また、設計からの出図図面枚数が減り原材料・部品のロットがまとまり、スケールメリットによるコストダウンが可能となり、材料出庫回数も減り在庫投資も抑制されます。 生産管理部門では部品種類削減により発注ロットが大きくなりスケジュール回数が減り、生産計画工数が低減します。また、段取回数・材料出庫回数が減り工程管理工数・仕掛在庫も低減します。品質管理部門では部品種類削減により品質が安定し、検査サンプル数が減り品質評価工数が低減します。また、段取回数が減り品質が安定し評価コストも低減し、不良・廃棄数が減り品質情報の提供も少なくて済みます。 製造部門では部品種類削減により生産ロットが増え段取回数が減り、1回当たりの段取時間が短縮され、段取工数が低減されます。また、品質も安定し検査数も少なく評価コストが低減し、不良件数も減り失敗コストも低減されます。 顧客との接点が多いメンテナンス部門では部品種類削減により補修する部品数が減り、故障修理工数・予防保全工数・備品管理工数を低減することができます。
このように部品種類削減効果は主に間接部門の固定費への効果も大きいのです。モジュラーデザインを推進していく中で、“総論賛成”“各論反対”ということばを耳にします。これは、各部門のメリットが見える化されていないところにあります。
モジュラーデザインは「部品種類削減を基本」においています。そのためには、活動の中で、部品種類削減による各部門の効果を“コストドライバー”へ落とし込み、パフォーマンスドライバーにて効率を管理していくことが必要です。
各論反対を是正するには、まずは、各部門の日常の困りごと・課題からスタートし、これらを低減(あるいは増加)するには、何がリンクするかを見極め、管理をすることが重要です。
以上
参照資料:
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