三菱・日産の行方は?- 鴻海がもたらすEVモジュール化 -

2025/4/30

  EV業界に押し寄せるモジュラー化の波と鴻海のEVプラットフォーム構想
 2025年3月三菱自動車と台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業との協業のニュースが流れました。また日産自動車への接触のニュースも流れています。今回は、鴻海のEV業界に仕掛ける試みをモジュラーデザインの観点から読み解きます。 これまで自動車産業は、各社が独自のプラットフォームと技術を持ち、それをいかに磨き上げて差別化を図るかという「擦り合わせ型・垂直統合」が主流でした。しかし、電動化の波とともに車両構造がシンプルになり、技術的な壁も低くなる中で、「モジュラー型・水平分業」の潮流が加速すると言われています。

図1:製品アーキテクチャの基本タイプ|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図1:製品アーキテクチャの基本タイプ

このような変化に先手を打っているのが鴻海です。鴻海は、スマートフォンなど電子機器の受託製造(EMS)で培ったノウハウをEVにも応用し、「MIH(Mobility in Harmony)コンソーシアム」というEVプラットフォームを打ち出しました。これは、車体構造・制御システム・バッテリー・ソフトウェアに至るまで、標準化された部品群をモジュールとして用意し、必要な部品を組み合わせることで、多様なEVを迅速に市場投入できるという構想です。

図2:鴻海のEVプラットフォーム|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図2:鴻海のEVプラットフォーム

鴻海EVプラットフォームを採用するOEMと部品メーカーのメリット・デメリット

EVプラットフォームに参加することには、OEM(完成車メーカー)と部品メーカーの両方に明確なメリットと課題があります。 OEMにとっての最大の利点は、「共通化された中核部品を使い、開発コストを抑えながら素早く市場投入できること」です。特に新興メーカーにとっては、ゼロから車体を設計せずに済むため、資金と時間の節約になります。一方で、車体や動力系など“クルマの本質”部分が共通化されるため、内外装やブランド・顧客体験設計といった「非中核部」での差別化が重要になります。これを利用し、シャープ(鴻海傘下)はコンセプトモデルのEVを発表しています。(https://corporate.jp.sharp/eshowroom/item/b32.html

このような異業種からの新規参入の加速が想定されます。 部品メーカーにとっては、鴻海EVプラットフォーム仕様に準拠することで複数OEMへの横展開がしやすくなるという利点があります。従来はOEMごとに異なる仕様に対応してきたため、多品種少量・特注対応が必要でした。しかし標準化されたプラットフォームにより、量産スケールを活かしたビジネスモデルへ転換可能です。ただし、鴻海への依存度が上がり、価格競争が激化するリスクもあります。

図3:従来型からEVプラットフォーム参加型への変化|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図3:従来型からEVプラットフォーム参加型への変化


スマートフォン業界との共通点と決定的な違い

EV業界のモジュール化の動きは、かつてスマートフォン業界で起きた変化と多くの共通点があります。たとえばAndroidの登場により、OSというソフトウェア基盤が標準化され、各メーカーはハードウェアで差別化を図るようになりました。これにより、部品メーカーの汎用展開が進み、価格も劇的に下がりました。 一方でEVでは、OSに相当するソフトウェア層だけでなく、物理的なハードウェアまでもが共通化されるという点が大きな違いです。すなわち、共通の車体構造・バッテリー・制御ユニットを複数社が採用することで、最終的にエンドユーザーが車を選ぶ基準が「性能や見た目」から「体験・利用価値」へと移行していくことが予想されます。
図4:スマートフォンとEVプラットフォームの比較|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図4:スマートフォンとEVプラットフォームの比較

まとめ:擦り合わせ型からモジュール型へ ― 提供者・利用者・環境の視点から

EV業界に起きている変化は、単なる技術進化ではなく、産業構造そのものの再編成を意味しています。かつての擦り合わせ型・垂直統合のものづくりから、モジュラー型・水平分業へと移行する中で、参加企業は「標準を握る者が市場を制す」という新たなゲームルールに直面しています。 この変化は、利用者にとっては、安価で高品質なEVが手に入りやすくなり、将来EVロボタクシー利用する際を想像してもコスパで選択することは容易に想像できます。 また、標準化とモジュール化により部品点数が減り、量産効率が上がることで、生産にかかるエネルギーや廃棄部品も削減されるという環境面でのメリットもあります。これは、サステナビリティを重視する現代社会において大きな意味を持ちます。 今回はEV業界に見る擦り合わせ型からモジュール型へという現在進行形の業界モジュール化について見てきました。この業界変動が、読者皆様の所属している業界や企業に現れた場合はどのような変化・影響があるでしょうか?このような業界モジュール化をリードする側になりますか、される側になりますか?どちらにしてもモジュラーデザインを理解し、使うことが重要です。



■参考


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