DXイネーブラー(を促進する)としてのMD

2025/5/30

DXを成功に導く要因にはMDとの類似性が多い。DX推進にはMDの実践活動が有効に働くことを提示してみたい。

1.DXの構造と実践上の課題

DXの成否は、経営層の取組み姿勢にあると言われています。それはDXがビジネスモデルそのものを変革することにあるので、当然と言えます。DXに至るデジタル化(デジタイゼーション)やデジタル化による業務プロセスの変化(デジタライゼーション)との違いを示します。(図1)

図1:DXへのステップ|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図1:DXへのステップ

経済産業省が2018年にITシステムの「2025年の崖」の克服と、経営変革を目的としてDXを推進することを提唱して久しい。DXの推進指標とその成熟度レベルを提示し(表1)、その調査を継続的に実施しています。しかし、多くの企業が目標に未達でスムースに進んでいません。大企業で達成度レベルが2~3、中小企業で1~2で、それぞれ目標に対して1~2の差が出ています。(図2)

独立行政法人 情報処理推進機構の2024年度の調査結果で指標の成熟度レベルが低い項目は;
  • 経営視点指標では;企業文化としての評価、事業部門における評価、バリューチェーンワイドです(2以下)
  • IT視点指標では;競争領域の特定、体制、IT投資の評価です(2以下)
このような現状に対して、積極的な企業は、経営視点指標のレベルが高いと評価しています。これはDXが事業構造の変革を伴うことから当然のことと思われます。

表1:成熟度レベル

図2:鴻海のEVプラットフォーム|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]
図2:指標に対する成熟度レベルの目標値と現状値|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図2:指標に対する成熟度レベルの目標値と現状値


2.MDの構造と実践上の課題

 一方で、モジュラーデザインの構造を考えてみます。モジュラーデザインは、モジュール化とそれを実践するモジュール設計にとどまらず、ビジネスモデルの変革を実現する「ものづくり革新手法」と定義されております。(図3)その本質は、市場要求の多様性に応えながら、部品種類の最小化という二律背反を実現する活動です。したがって、製品アーキテクチャーをモジュラー型にすることはもちろんですが、バリューチェーンワイド(設計から調達、製造、物流、販売、アフターサービス)に効果が生まれるような、企業全体で取り組むべき「ものづくり革新」活動です。(図4)
図3:モジュラーデザインの構造|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図3:モジュラーデザインの構造

図4:モジュラーデザインで実現するバリューチェーン|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図4:モジュラーデザインで実現するバリューチェーン

ではこのようなバリューチェーンを生み出すにはどのような課題があるでしょうか。

  1. ① 市場要求の多様性:市場分析とセグメンテーション、市場動向分析、技術動向分析
  2. ② 部品種類数の最小化:製品機能の再定義、モジュールの選定と組み合わせルールの確立
  3. ③ 二律背反の克服:経営戦略・製品戦略立案、プロジェクト管理、全社活動の整合性確保
 市場要求の多様性への対応や、部品種類数の最小化は技術的問題ですが、二律背反の克服は企業風土や経営層の意思決定が大きく結果を左右することになります。多くの企業ではDXもMDも小さく始めて結果が出たら、予算をつけて全社展開するという発想が多いように見受けられます。結果として、どちらも中途半端になることが多いのではないでしょうか。DXレポートはそのことを示していると思います。

3.MD活動の基本は標準化

多くの企業に見られる考え方として、「MDの実践を通して既存事業の省力化を図り、新規事業やイノベーションに経営資源を投入する」ということがあります。その考え方では「既存事業の省力化」が見えるまでに何年かかり、どのくらい省力化が図れるのかが見えなければ、MDは本格化しません。MDもDXと同じく全社で取り組む経営戦略によるビジネスモデル変革活動なのです。したがって、このような活動は、現在の自社の活動の外にあるものではなく、現状の活動の実態の見直しから始めるべきものです。例えば、多くの設計部署で見られる暗黙知や設計開発プロセスの未定義は企業内に多くのムダを生み出しています。これらのプロセスと展開される情報を整理し、論理的で整合性のある形にすることから始めなければなりません。(図5)

図5:製品開発プロセスの見直し|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図5:製品開発プロセスの見直し


設計プロセスを見直し、展開される情報を整理することが、「製品モデルの確立」プロセスです。製品モデルで展開される情報のつながりが、製品アーキテクチャーになります。 製品モデルの各ドメインの情報を整理し、その展開手順を明らかにすることが「設計手順書」です。暗黙知を手順書に書き出すことによって、情報展開の整合性を図ります。このような製品にまつわる情報の関連を明らかにするという活動無くして、MDモDXも成功することはありません。(図6)

図6:製品開発プロセスの整合化|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図6:製品開発プロセスの整合化

4.DX イネーブラーとしてのMD

DXの定義とその活動にMDの活動を併記してみると、その共通性が見えてくると思います。(表2)
共通する項目として;
  1. ① 推進体制:経営層のコミットメントと経営戦略として実践する
  2. ② 活動対象:全社関連部門の連携が必要
  3. ③ 活動目標:ビジネスモデルの変革を通じて、競争力や企業価値の向上を図る
  4. ④ 活動項目:現状の業務プロセスの見直しと標準化、業務展開情報の整流化
等があげられます。いずれにしても、DXやMDはブルーオーシャンではなく、現状の課題への踏み込みが中心になるべきだと考えます。

表2:DXの定義と活動をMDと比較する

表2:DXの定義と活動をMDと比較する|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

DXもMDも全社を挙げて実践すべきテーマですが、そのために専任者や専任部署を設けて、人材育成や知識獲得を始める企業が多いようです。しかし、まずは自社の現状を分析し、ムリ・ムラ・ムダを省くという地道で当たり前な、現状の見直しから始めるべきだと思います。

6月17日、18日に開催されるモジュラーデザインアカデミーそのための方法論をお話ししたいと思います。


【モジュラーデザイン・アカデミー講座概要】

モジュラーデザイン・アカデミー講座概要|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

「モジュラーデザイン・アカデミー」詳細



■参考


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