講演会の発表事例から学ぶ

2025/11/30

  モジュラーデザイン研究会の第11回講演会が11月6日に開催されました。
オンライン含め100名近い方々にご参加いただき、ありがとうございました。
講演会では、3種類の実践事例が発表されました。この発表からモジュラーデザインを推進する上での貴重な学びが得られました。
 事例とその特性は

  • A.基調講演でのプリンター複合機:メカ・エレキ・ソフトがからむ、複雑なシステム。
  • B.事例発表での公共機器:構造はシンプルだが、市場要求が多様なビジネス。
  • C.事例発表での圧造機:構造と機構が複雑で、設計因子の設計方法が暗黙知のまま、機種数が拡大した製品。
です。
これまで、研究会では毎年アンケートを実施しており、その中で見られる課題を大別すると
  1.  1.企業内での合意形成が難しい
  2.  2.実践方法が分かりにくい
  3.  3.効果の予測が困難
です。これらの課題に対して、今回の事例が多くの企業で参考になると思います。 課題にどのように対処したかを事例で確認します。

1.企業内での合意形成が難しい

研究会ではモジュラーデザインは事業戦略なので、経営層が設計開発プロセスの変革を決断する必要があると伝えてきました。従って、推進しようとすると、投資対効果を明確に提示することが必要でした。そのためには、上記2,3が明確になって、時間や工数を考慮した費用対効果の見通しを立てる必要があります。そのためモジュール化の効果は間違いないとは思っていても、組織を動かすことが困難でした。

 このような状況に対し、我が国の組織特性である「擦り合わせ力」を発揮して現場の合意をまず取り付けた事例が、Bの「公共機器」です。技術部門はコストセンターで、プロフィットセンターであるSCM部門にモジュラー思考を理解してもらうことに注力されました。その際に、営業、調達、製造、据付などの各部門の要求を、個別に確認しました。(図1)そのうえで、自社の強みであるカスタマイズ性を残したままで、仕様の標準化を進めました。(図2)これによって全部門で共通認識を作り推進中です。

 一方で、製品の一部にモジュール化を適用して、その効果をベースに製品全体への展開の承認を得ようとする事例が、Cの「圧造機」です。圧造機とは横型の鍛圧機械(プレス機)です。機構としては20近い機能部品で構成されております。(図3)この中で、「突き出し部」を検討対象として、その設計因子をもとに、機種に依存した設計から機能による設計に変更することで、部品数の削減が可能であることを示しました。(図4)今後は、システム全体の設計因子とその関係性を明らかにすることにより、さらなる部品種類数の削減と、製品の多様性を目指します。この事例では手法の一部である設計因子の関連を明らかにすることが提示されています。
図1:モジュラー化思考の展開|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図1:モジュラー化思考の展開


図2:モジュラー化思考の戦略|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図2:モジュラー化思考の戦略


図3:圧造機の機能ブロック図|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図3:圧造機の機能ブロック図


図4:突き出し部機種と部品点数の削減|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図4:突き出し部機種と部品点数の削減


2.実践方法が分かりにくい

 実践方法については、「手法の意味と関連が分からない」という部分と、「社内の合意がとりにくい」という両面があると思います。社内の合意についてはBの事例でご説明したことが参考になります。一方で、モジュール化の手法としての進め方については、事例Aのプリンター複合機で実践されたシステムズエンジニアリングが基本になります。システムズエンジニアリングの中でテクニカルプロセスが設計開発プロセスの基本形です。(図5)これを実践した結果、短期間で複雑な製品システムのラインナップとして開発工数を削減しています。(図6)

図5:テクニカルプロセス|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図5:テクニカルプロセス

製品開発プロセスで論理アーキテクチャーの階層を抽象性の高い機能表現から具体性を持った機能表現へと展開することにより、対応する物理アーキテクチャーがモジュールとして成立しやすい構造になります。このような論理アーキテクチャーを検討する3つの視点が提示されております。(図7)

図6:テクニカルプロセス|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図6:テクニカルプロセス

図7:テクニカルプロセス|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図7:テクニカルプロセス


3.効果の予測が困難

 今回の3つの事例での効果を概観します。 事例Aでは製品ラインナップの同時開発で大幅な開発期間の短縮を実現しています。 事例Bでは仕様をその性格で分類することにより戦略的にコストを削減しています。 事例Cでは設計因子の分析により、部品種類数を大幅に削減しています。 各社は目的とする効果を目指して活動項目を決めていると思います。従って、効果の予測ではなく、その効果を得るためには何をすべきかを考えることが重要になります。

講演会で発表された事例から、モジュラーデザインを推進する課題への各社の取り組みを確認しました。 自社の製品や目的に沿って各社で様々な活動がなされております。これらの事例を参考にしながら、研究会ではモジュラーデザインの手法を普及していく活動を進めております。

  • JMN
     各社が事例や課題を持ち寄って討議する場を年に数回開催しております。
     討議テーマは各社から提示いただく場合と、研究会が提示する場合があります。
  • モジュラーデザインアカデミー
     講座形式で研究会の知見を提供します。
     2026年度の開催要領は、研究会ホームページに掲載しております。


■参考


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